トランプ前米大統領(78)が7月の銃撃事件からわずか2カ月で再び命を狙われた。大統領選が約50日後に迫る中、米社会には異様な緊張感が漂う。政治的背景を伴う暴力の影が米国を覆ってなお、有権者の間の分断は深く、お互いを「敵」と見なし非難の応酬を繰り返す選挙戦の構図は変わりそうもない。

 ◇「なぜこの距離まで」

 「2度目の暗殺未遂も私の決意を強めただけだ。(投開票日の)11月5日、われわれは米国を再び偉大にする!」。トランプ氏は事件後、支持者宛てのメールで改めて復権を誓い、「団結」と「平和」を呼び掛けた。大統領選でトランプ氏と対決するハリス副大統領(59)も「政治的暴力を非難する」と声明で述べた。

 7月13日のトランプ氏暗殺未遂事件後、当局は正副大統領候補の警備を大幅に強化。屋外集会の際に演台を囲う防弾パネルを設置するなど、多くの人目にさらされる公の場では、追加の措置が講じられた。

 だが今回、トランプ氏はプライベートでゴルフに興じており、容疑者の男はフェンスの茂みに隠れてライフルを構え、数百メートルの距離に迫っていた。米メディアは、男がSNSでトランプ氏に批判的な投稿をしていたと報じている。

 ニューヨーク・タイムズ紙によれば、トランプ氏は周囲に「こんなことが起こるなんて信じられない」と口にし、同氏顧問はこの距離まで接近を許した当局への怒りをぶちまけた。最悪の事態は免れたが、公職に就いていない大統領候補を標的にした凶行を防ぐ難しさも改めて突き付けた。

画像を拡大 米大統領候補のテレビ討論会に臨んだハリス副大統領(右)とトランプ前大統領=10日、ペンシルベニア州フィラデルフィア(AFP時事)

 ◇選挙戦左右せず

 今月10日のトランプ氏とハリス氏のテレビ討論会ではハリス氏に軍配が上がり、「移民がペットを食べている」などと根拠のない主張を展開したトランプ氏への批判が高まった。主要機関の世論調査でハリス氏が4~5ポイント先行する結果が相次いでいる。

 今回の事件がメディアを一定期間にぎわせ、その分トランプ氏の言動に否定的な報道が減る可能性がある。インターネット上では、トランプ氏の支持者が「民主党のプロパガンダに染まった人物の犯行」と主張する一方、ハリス氏支持者からは、守勢に回っていたトランプ氏陣営の「自作自演」を疑う声すら上がる。

 分断が浮き彫りになるばかりで、2度の暗殺未遂という異常事態さえ、選挙戦を大きく左右することはなさそうだ。7月の事件当時、民主党候補だったバイデン大統領は選挙活動を一時停止したが、ハリス氏陣営は17日にペンシルベニア州で予定通り選挙集会に臨む。トランプ氏も同日、ミシガン州で対話集会に出席する意向だ。(ワシントン時事)

(ニュース提供:時事通信 2024/09/16-14:40)

 

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