東京電力福島第1原発の処理水放出から1年がたったが、一大輸出先の中国では日本産水産物の全面禁輸が続き、依存度の高いホタテ貝の業者らからは「もう耐えられない」との声が上がる。一方、風評被害がほとんど見られない地域もある。漁業者を「分断」するように格差が露呈しており、より丁寧な支援が求められる。
 「国や東電、漁業者の努力や消費者の冷静な判断で風評被害は抑えられており、一安心だ」。福島県漁連の野崎哲会長は22日、いわき市で記者団にこう述べ、安堵(あんど)の表情を浮かべた。
 処理水が直接地元の海に流れる福島県では懸念が特に強かったが、その一方で水産物を返礼品とするふるさと納税が急増。県の2023年度のふるさと納税額は前年度比44%増の88億6646万円と過去最高を更新した。
 「常磐もの」と呼ばれる地元産水産物フェアも相次いで開かれ、全国的に応援の機運が高まった。県内で水産加工業を営む50代男性も「危惧していた取引への影響は無かった」と感謝する。
 これに対し、ホタテ産地の状況は深刻だ。青森県では陸奥湾の海水温上昇で養殖ホタテが大量死する事態にも見舞われた。青森市の水産加工業「小田桐商事」の岩谷孝代表(70)は、「今も倉庫には数百トンの冷凍ホタテの在庫が積み上がっている。赤字覚悟で売っていくしかない」と話す。
 台湾やインドなど販路開拓も進めるが、量をさばけるには至っていない。岩谷さんは「補償の交渉もしているが、1円も受け取っていない。今は自前で何とかしているが、もう耐えられない」とため息をつく。
 中国が輸出の7割を占めた北海道では、昨年9月から今年6月までの輸出額がその前年の同じ時期と比べ5割超も減少。「中国の穴を補うにはまだまだ時間がかかる」(道幹部)のが実情だ。
 東京電力ホールディングスによると、今月14日時点で処理水に絡み約570件の賠償請求があり、約190件、約320億円を支払った。福島県産品や国産ホタテなどを提供するイベントも国内外で計150回以上開催。秋本展秀常務執行役は「新たな風評を発生させないという決意の下、国産水産物の販路開拓や消費拡大、関係者への適切な賠償に取り組む」と話している。 
〔写真説明〕取材に応じる小田桐商事の岩谷孝代表=20日、青森市
〔写真説明〕イベントで国産ホタテを振る舞う東京電力ホールディングスの社員ら=7月25日、東京都港区(同社提供)

(ニュース提供元:時事通信社)