住民の大切な服を火災現場から保護する消防士 (FF I - Property Conservation: Salvage (#21) (出典:Youtube))


消防法の第一条に「この法律は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする」とあるように、火災現場における消防活動の重要な任務として「財産の保護」がある。


INDUSTRIAL FIRE BRIGADES: INCIPIENT LEVEL #12 Loss Control: Salvage (出典:Youtube)

災害における財産の損失は、火災建物の関係者にとって明らかな 2次被害である。消防隊は可能な限り被災者の財産を守るべく、先着隊の初動活動から生命・身体を守ることはもちろん、活動終了まで財産にダメージを与えないよう、活動隊員に意識させ、 消火や残火鎮滅活動だけでなく破壊活動においても、そこにあるものは個人の大切な財産であることを再認識する必要がある。

アメリカでは消防活動の目的上の財産の保護について、水損防止ばかりでなく「火災、煙、水、熱、寒さ、または天候による火災時および火災後の被害を軽減する」としている。火災による延焼、煙による汚染、水による水損、熱や寒さによる変形やダメージ、天候の変化による排煙目的の開口部の破壊部分からの雨風振り込みによる損失までを考えて活動している。

下記のビデオでは、破壊した開口部からの雨水などによる水損予防、吸水掃除機を使った水損対策等が紹介されている。


FF I - Property Conservation: Salvage (#21) (出典:Youtube)

日本では「財産の保護=火点階下への水損防止」が主で、どちらかというと消防活動に対して、火災建物関係者からの問題指摘や訴訟予防対策という意味が強い傾向にある。

下記のビデオは鳶口を用いた漏水ルートの作り方


ch 21 construct a water chute with pike poles (出典:Youtube)

もちろん、消火戦術として高圧噴霧(ウォーターミスト等)で放水できるインパルスノズルやアスピレートノズルの活用は(一昔前は、ゲル化剤の使用もあったが)、アメリカのように「家族の大切な想い出と生活の場を守るために、火災建物内に残された財産を保護し、必要があれば、写真1枚でも建物外へ運び出して、焼け出された家族に手渡す」という被災者への心のケアまでを含んだ「財産の保護」ではないような気がする。

現在、日本でも、消防隊によっては火災現場内の高価なパソコンやテレビなどの電気製品等、絵画や版画などを、マスキング シート(耐熱・塗装用 カッティングフィルム 58cm x10m)やストレッチフィルム(1m x 150m)などを使って、出来るだけ早い段階から迅速に保護することも行っており、防水シートでは守り切れない部分を具体的に保護している。

アメリカでは一般住宅やマンションなどの火災における財産の保護対策用装備(サルベージツール)として、下記のような財産保護道具を消防車内に装備している。

•サルベージカバー(4m x 5m、5mx6mを2枚ずつ)
•ホールランナー(玄関からすべての部屋に通じる廊下に敷くカッティングシート、幅60cmx100m、75cm x100m)
•リカバリーバッグ(ジップロックのような防水袋)
•プラスチックシート(防水シートよりも薄くて軽い)
•ウォーターバキューム(水を吸える掃除機)
•スクープシャベル(プラスチック製のスコップ)
•スクイージ(除水ゴムべら)とモップ
•ファン(送風機)


また、上記の各装備の使い方、折りたたみ方、設定方法、車両積載時の注意やメンテナンス方法についても、写真付きの詳しいマニュアルがある。

■サルベージマニュアル(シアトル市消防局)
https://www.seattle.gov/Documents/Departments/fireJobs/BSM_Chp7_Salvage.pdf

■サルベージマニュアル(サンフランシスコ市消防局)
http://ufsw.org/pdfs/salvage_manual.pdf

下記のビデオが一番まとまっていると思うが、映像の転載禁止のため、リンクのみご紹介させて戴く。

■Salvage Operations
https://www.youtube.com/watch?v=F29yZ6XyDa0

上記のビデオ前半から、アメリカでは、先着隊が人命救助と火災防御&制圧に成功した後、後着隊の活動として、火災建物から外へ家財の運び出しも消防士が行っていることがわかる。

日本では、住宅火災警報器の設置義務など、消防設備や内装や塗料、内容物の不燃火などが進み、過去に比べると一般住宅の火災発生件数が著しく減少している。しかし総務省消防庁が発表した、昨年の「平成29年(1〜12月)における火災の状況」によると2017年の総出火件数は 3万9373 件。2016年より 2542 件も増加している。

住宅火災の出火原因の第 1 位は「たばこ」、第 2 位は「放火」。死者(放火自殺者等を除く)数は 889 人のうち、65 歳以上の高齢者は 646 人で、前年より 27 人増加(+4.4%)し、住宅火災による死者(放火自殺者等を除く)数の 72.7%を占 めている。 

■平成29年(1~12月)における火災の状況(総務省消防庁)
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h30/08/300807_houdou_1.pdf

私の調べた範囲であるが、今のところ各消防本部では、火災建物の住人が焼死した現場に残留した、貴重品(株券、金券、商品券、古銭、貴金属等)を消防活動中に発見した場合は、速やかに警察に届けることとなっている。

また、火災建物から逃げ出して助かった住人者等の個人にとって価値があると認められる思い出の品等(位牌、アルバ ム、卒業証書、賞状、成績表、写真)、金品関係(財布、通帳、手帳、ハンコ、貴金属類)については、可能な限り所有者や家族に引渡している。

もし、パソコンやハードディスク、携帯電話、ビデオ、デジカメなどがあった場合は個人情報も含まれるため、水損予防配慮が消防活動の早い時点で必要となることなども一般的になってきていると聞き安心した。

できれば、上記の様々なものを引き渡す過程でアメリカのように、発見した品々を透明の防水バッグに入れて、マーカーで発見場所を書いて手渡しできるようになると、さらに住民から感謝されるのではないかと思う。

(了)


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