「従業員の災害ボランティア活動にルールを設けるべき?」「家庭防災への支援はどこまでやったらいい?」など、危機管理には明確な答えが存在しないケースも多い。本紙はこの半年間で聞いた読者のリアルな悩みを集約、代表的な「Q(Question)」を設定し、危機管理に詳しいコンサルタントに提示して「A(Answer)」をもらった。危機管理の難問・疑問、その答えは――。実務の超ヒントとして紹介する。

危機管理担当者の難問・疑問に答えてくれたみなさん

 
 
 
 
荻原信一さん
トラストワンコンサルタンツ代表

1991年から大手IT企業に勤務。システム開発チームリーダーとして活動し、2005年にコンサルタント部門に異動。製造業、アパレル、卸業、給食、エンジニアリング、不動産、官公庁などのコンサルティングを手がけ、2020年に独立。

田代邦幸さん
Office SRC 代表

自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年より複数のコンサルティングファームにてBCMや災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して2020年に合同会社Offi ce SRCを設立。

多田芳昭さん
LogIN ラボ代表

一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。

林田朋之さん
プリンシプルBCP 研究所所長

北海道大学大学院修了後、富士通を経て、米シスコシステムズ入社。独立コンサルタントとして企業の IT、情報セキュリティー、危機管理、自然災害、新型インフルエンザ等のBCPコンサルティング業務に携わる。

 

従業員の災害ボランティア活動にガイドラインやルールは設けるべきか(イメージ:写真AC)

従業員のボランティアにルールやガイドラインは必要?

Q1 能登半島地震において、従業員のボランティア活動を認めるか否かの判断が困難でした。原則的には個人の自己判断だと思いますが、従業員のボランティアに関して、企業としてルールやガイドラインはあったほうがよいでしょうか?(複数の企業)

→Answer
ボランティアへの参加は規制できない

法令違反や公序良俗に反する行為でなければ、就業時間外における従業員の行動を企業が規制するのは難しいでしょう。また従業員から有給休暇の申請があった場合、ボランティア活動への参加であることを理由に拒否することはできないと思います。

従業員の安全面を危惧されているのであれば、被災地での行動における安全確保のためのガイドラインを提供する、信頼できるボランティア団体などへの参加を推奨する、などの方法が考えられます。ボランティア保険への加入も推奨すべきと思います。

また、ボランティア活動における従業員の不適切な行動によって自社の信用やイメージへ悪影響が及ぶことを避けたいのであれば、ボランティア活動に限らず、就業時間外でも会社に不利益をもたらす行為をしないよう従業員教育などで周知徹底すべきでしょう。たとえプライベートの行動でも、従業員の犯罪や法令違反、迷惑行為などによって報道やSNSなどで社名とともに事件が知れ渡る可能性を理解させることも重要と思われます。
【田代邦幸】

→Answer
意志ある人の背中を押すのも大事

能登半島地震では、初期のフェーズで自治体が「能登に来ないで」と強いメッセージを出しました。現地のキャパを考え、やむを得ない判断だったと思います。こうした状態のときにボランティアに行くのは逆効果になりかねませんから、最終的に個人の判断だとしても、企業は自粛を促すべきでしょう。

ただしその後、時間の経過とともに、今度はボランティアが必要なフェーズに入ってくる。そのときは、企業として組織的な対応があっていい。被災地支援の方針を打ち出し、社員のボランティアを募ったり、意志ある人に情報を提供したりといった、背中を押す方向性を考えてもいいと思います。

それには、ある程度の見極めが必要です。こういうときは自粛を促し、こういうときはあと押しするといったガイドラインがあるだけでなく、運用において現地の状況を把握しないといけない。現地ニーズに合わせて行うのが被災地支援ですから、自社の判断だけでやるのはよろしくありません。一次ソースとして自治体の情報を入手し、それを社員に発信できる体制と仕組みが必要です。

能登半島地震では初期のメッセージに引っ張られ、その後のフェーズでもボランティアの自粛ムードが続きました。それが反省点だとしたら、ある程度時間が経過した後は、積極的にあと押しする意識も必要です。企業が果たせる役割は大きいと思います。
【多田芳昭】

→Answer
メリットとデメリットをふまえて

企業が社員のボランティア活動を支援するメリットは次のとおりです。

・ボランティア活動の支援を社会貢献の一つとしてアピールできる。
・ボランティア活動を支援している企業に属していることが社員のモチベーションにつながり帰属意識の向上が期待できる。
・社員がボランティア経験を持ち帰り、斬新なアイデアをもたらす、リーダーシップを発揮するなど、人材の成長が期待できる。

半面、次のデメリットも考えられます。

・社員がボランティア活動に参加している間、他の社員がカバーするなどのしわ寄せが生じる。
・ボランティア活動中にケガを負ったり二次災害に巻き込まれたりした場合、職務復帰に時間がかかる。
・ボランティア活動に参加することが正義であり義務であるかのような同調圧力を社内で生じさせ、チームワークを低下させる可能性がある。

ボランティアに参加したいという社員の意欲を企業が抑止することはできませんから、上記をふまえ、ボランティア休暇制度を設ける、社業に影響がないことや活動中の事故等は自己責任で対処することなどを盛り込んだガイドラインを設けるなどして対応するのが望ましいと考えます。
【荻原信一】