【ニューデリー時事】インドの首都ニューデリー中心部で7月下旬、公務員予備校の地下室に雨水が押し寄せ、自習していた20代の男女3人が溺れ死んだ。地下は自習室としての利用許可を得ていない「違法施設」。インドでは安定した職業として公務員の人気が高く、受験競争が過熱。事故は乱立する予備校に規制が追い付かず、安全性が置き去りになっている実態を浮き彫りにした。
 「私たちが求めるのは正義だ」。事故から1週間がたっても、現場となった予備校前で若者が抗議を続けていた。
 抗議活動に参加した公務員志望のアマン・バルガバさん(28)は「政府は遺族に十分補償し、このような予備校を規制すべきだ」と訴える。事故が起きた予備校に通うビール・シンさん(26)は「3人と面識はなかったが、同じ旅の仲間だった。(抗議は)将来ここに来る後輩のためでもある」と語った。
 事故は7月27日夜に発生。地元報道などによると、約30人が自習していた地下1階に豪雨に伴う雨水が流れ込み、逃げ遅れた21歳と25歳の女性2人、28歳の男性が亡くなった。建物には排水設備がなく、予備校オーナーらが過失致死容疑などで逮捕された。
 3人が目指したインド最難関の公務員試験には毎年100万人以上が応募。倍率は1000倍を超える。中でも最上位のインド行政職(IAS)と呼ばれる中央政府などの幹部候補は年180人程度しか採用されない狭き門だ。試験の厳しさを清朝時代まで中国に存在した官吏登用試験「科挙」に例える声もある。
 それでも、安定した収入と名誉を得るため毎年多くの若者が試験に挑む。受験熱の高まりに伴い、全国で未登録業者も含め予備校が急増。高額な授業料や教員の質の低さも問題となっている。事故を受け、首都圏政府は管内の全ての予備校の設備の確認や教育の質の確保、料金の是正に乗り出す方針を示した。 
〔写真説明〕3人が死亡する事故が起きたインドの公務員予備校=3日、ニューデリー
〔写真説明〕3人が死亡する事故が起きた公務員予備校の前で抗議するインドの人々=7月30日、ニューデリー

(ニュース提供元:時事通信社)