「訪日ラッシュ」の恩恵を宿泊業界は生かし切れていない。政府は19日の観光立国推進閣僚会議で全国の国立公園に高級ホテルを誘致する方針を示し、訪日客を地方にも呼び込もうと躍起だが、接客スタッフの不足は一段と深刻化。帝国データバンクの調査によると、ホテルや旅館の6割が人手不足を訴え、「予約や稼働率を制限しているケースが見受けられる」(担当者)という。これ以上、特需を取りこぼすことがないよう、各社は知恵を絞っている。
 来年の大阪・関西万博を前に、関西圏は国内外から訪れる見物客を当て込んだホテル建設が相次ぐ。フロントや清掃などのスタッフ不足に拍車が掛かり、今月末に大阪市内に3軒目を開業するJR西日本ホテルズは「予約客を『戦略的に』制限している」と明かす。宿泊料金を値上げすることで客室稼働率を下げ、ホテル運営と収益を維持している。
 外国人が客の約3割を占める神奈川県箱根町の旅館「仙石原ススキの原 一の湯」。運営会社の大野正樹店舗運営本部長は「長く働ける人材が欲しい」と、打ち明ける。夕食やチェックアウト業務など、朝夜の接客を伴う人員の確保は特に難しい。このため、人材の定着につなげようと「接客評価手当制度」を6月に導入した。宿泊客がアンケートで従業員の名前を挙げて評価するたびに500円支給する。
 軽井沢プリンスホテルなどを運営する西武・プリンスホテルズワールドワイドをはじめ、賃上げで待遇を改善する動きも広がる。訪日客ビジネスの動向に詳しいみずほリサーチ&テクノロジーズの坂中弥生上席主任エコノミストは、「訪日客の料金を高めに設定し、利益を生み出す宿泊施設が増えるのではないか」とみている。 
〔写真説明〕神奈川県箱根町の旅館で宿泊客に飲み物を提供する従業員(一の湯提供)

(ニュース提供元:時事通信社)