「Amazon Go」は商品を持って出ていけば精算が済む、究極の無人店舗(出典:Wikipedia)

■押しも押されもせぬブレークスルー

「人工知能(じんこうちのう、英: artificial intelligence、AI)とは、「計算機(コンピューター)による知的な情報処理システムの設計や実現に関する研究分野」を指す」(Wikipediaより)。

AIはいまやブームです。いやブームなどと言えばAIの熱烈な支持者のみなさんからクレームがつくかもしれない。「ブームだって?とんでもない!これから社会に深く浸透し、社会を劇的に変えていくブレークスルーだぞ。軽々しくブームなどと呼ばないでほしいな」と。

筆者がこの連載を書こうと思い立ったきっかけは、次の記事を読んだことにあります。米国在住のある男が3Dプリンターによる銃の製造方法をウェブサイトに掲載したところ、米連邦政府から削除を命じられた。納得のいかない彼は訴えを起こした。すると「銃や銃のパーツを販売したわけではない」「(政府の命令は)武装権を認めた米憲法の修正条項に抵触する」などの理由で男の言い分が通ってしまった。彼は政府から和解金を受け取り、以前よりもパワーアップした銃製造サイトを公開してよいことになった…(その後シアトル連邦地方裁判所は、ネットでの銃製造方法公開前日に公開の差し止め命令を下し、なんとか事態の悪化は避けることができたそうです)。

参考記事(ABC15)
https://www.abc15.com/news/national/americans-can-legally-download-3-d-printed-guns-starting-next-month

この記事そのものはAIとは関係ありません。しかし、やや極論かもしれませんが、私たち人間の営みに新しいテクノロジーが絡んでくると、これまで人間だけなら厳密に適用できた善悪の判定や責任の所在があいまいになり、常識や社会通念すら当てはまらなくなってしまう怖さがあるのです。

AIもまた、急速な勢いで社会システムに組み込まれつつあります。当然そこには、予想もしなかったようなやっかいなことが起こりそうな予兆があるわけです。その予兆をここでは「リスク」と呼び、想像されるいろいろな問題や矛盾、危険性などについて考えてみたいと思います。

■商品を手にしたら黙って出ていってよい店

「聞き捨てならない話だ」と見出しの文字に呆れた人もいるでしょう。これはアマゾンの米国・シアトル本社にオープンした無人ショップ「Amazon Goストア」の話です。

参考記事(BBC)
https://www.bbc.co.uk/news/business-42769096

消費者が準備することと言えば、アマゾンのサイトから無人ショップを利用するためのアプリをスマホにダウンロードするだけです。あとは店に行って入口でスマホをかざし、好きな商品をピックアップしたらそのまま店を出ていってよし。商品補充の店員以外はいないしレジカウンターもない。代金はおそらくリアルタイムで、アマゾンのアカウントサービスで処理されるのでしょう。

それにしても「これじゃ、ほとんど万引きの感覚と変わらないな。本人は店を出る時に後ろめたい気分になりはしないのかな?」などと筆者は思ったものです。もちろんこの自動システムには、購入者と購入者が手にする商品をリアルタイムかつピンポイントで追跡するためのカメラとセンサーがさまざまな角度から設置されていて、それをAIで統制管理します。店内に何人もの客が複雑に入り乱れていても大丈夫。一度手にしたあと棚に戻した商品はアプリのショッピングカートから自動削除されます。

「わざわざレジの前に並ばなくても済みます。買ったらそのまま店を出るだけです」。アマゾンはこのように消費者にとっての利便性を強調し、今後も無人ストアを増やしていく方針だそうです。世界広しといえどもこんな仕組みを実現したのはアマゾンぐらいのものだろうと思っていたら、他の企業も参入に乗り出しているから驚きです。例えばスウェーデンの企業は移動式の無人AIショップで食料品や薬を販売するシステムを開発し、中国で試験運用しているといいます。