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多様な人材を受け入れ、公平な環境を提供し、包括的な文化を築くことで、企業は創造性やイノベーションを促進し、競争力を高めることが期待できる。企業の社会的責任(CSR)の一環として、近年注目されているDE&I(多様性、公平性、包括性)の取り組みをはじめている企業も一定数いるだろう。

しかし、せっかくリソースを割いて作ったDE&Iも、自社の顧客の価値観と一致しない場合には、反発を招くリスクがある。

もし、自社のDE&Iの取り組みが、50万人近いフォロワーを持つインフルエンサーに批判され、SNS上で大炎上したら、あなたならどう対応するか想像できるだろうか?

今回はそんなリスクが顕在化した事例と、企業が取るべき対策を紹介したい。

トラクター・サプライ・カンパニー(TSC)は、米国の農業用品、飼料、家庭用品、DIY用品などを販売する大手企業。

そんなTSCが最近、50万人近いフォロワーを持つ保守派活動家ロビー・スターバック氏にSNS上で批判された。スターバック氏は、TSCのDE&Iへの取り組みを「過度にリベラル」として批判した。具体的には、TSCがDE&I評議会を設置し、従業員向けのLGBTQ+研修を実施し、気候変動に取り組むことを非難した。

TSCは、その幅広い商品ラインナップとコミュニティに密着したサービスで知られており、主に農村部の住民や農業従事者を顧客に持ち、その多くが保守的な価値観を持つとされている。

日本で例えるなら、企業が地域社会や保守的な顧客層から強い反発を受ける状況に似ているかもしれない。ちなみに保守派とは、伝統的な価値観や既存の社会秩序を重視し、急進的な変化や革新を避ける立場の人々を指す。

保守派活動家の批判へのTSCの対応

スターバック氏の批判に対し、TSCは迅速に対応した。同社は2024年6月27日に公式声明を発表し、保守派の圧力を受け止める形で、DE&Iの取り組みを中止するとともに、炭素排出目標の撤回と人権キャンペーンへのデータ提出を停止することを発表。

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声明には以下のような内容が含まれる。

「85年以上にわたり、トラクター・サプライは一つのことに集中してきました。それは“Life Out Here”を支えることです。毎日、私たちの50,000人のチームメンバーが家族のようにお客様を大切にしています。私たちはお客様やコミュニティとの関係を深く重んじており、毎日私たちのミッションと価値観に忠実であろうと努力しています。お客様からの失望の声を受け止め、今後の活動を再評価しました。」

声明には、今後は農業教育、動物福祉、退役軍人支援といった事業関連の活動に焦点を当てることが明記された。また、DE&Iの役割を廃止し、炭素排出目標を撤回する一方で、土地と水の保全活動に注力することも発表した。

日本では、保守的な活動家が企業のDE&I活動を標的にするという事例はあまり見られない。しかし、顧客基盤の価値観と企業活動の不一致が問題となるケースは今後増えると考えられる。