私たち女性の多くが、鏡の前で立ち止まる瞬間がある。「もう少し目が大きければ」「鼻筋がもう少し通っていれば」そんな思いが頭をよぎる。自分の顔にコンプレックスを抱えない女性は、おそらく少数だろう。現代社会は容赦なく「美しさ」を要求する。SNSの普及により、フィルターで加工された写真が溢れ、「いいね!」の数が自己肯定感を左右する。

このようなルッキズム(容姿主義)が蔓延する社会で、年相応の容姿ですら劣等感を感じてしまう。それは10代の少女たちだけの問題ではない。どの年齢層の女性にとっても、自分の見た目に自信を持つことは容易ではない。

そんな中、Doveの「#カワイイに正解なんてない」を掲げた広告キャンペーンが、思わぬ形で物議を醸すことになった。美の多様性を訴えるはずだったそのメッセージは、皮肉にも多くの女性たちの琴線を刺激し、大きな波紋を呼んだのだ。

キャンペーンの意図と反響

10月11日、Doveは国際ガールズデーに合わせて「#カワイイに正解なんてない」という広告キャンペーンを展開した。この取り組みは、同社が20年にわたって続けている自己肯定感の向上を目的とした「セルフ エスティーム プロジェクト」の一環として位置付だ。しかし、善意から生まれたであろうこの取り組みが、予期せぬ炎上を引き起こした。美の多様性を訴える広告が、多くの女性たちの怒りを買うことになったのだ。

渋谷駅の広告イメージ(出典:ユニリーバジャパン

キャンペーンの主な目的は以下の通りだった。

・SNS上に蔓延する画一的な美の基準に疑問を投げかける
・10代女性の自己肯定感を高める
・美しさの多様性を促進する

これらは、Doveが実施した調査結果に基づいている。調査によると、16~19歳の女性の82.3%が自分の容姿や体形に自信がなくなった経験があり、そのうち半数以上がSNSを見ている時に自信を失うと回答している。

そこで「Eライン」「中顔面 6.5cm」といったSNS上で流布している美の基準を表す言葉を、渋谷駅の構内などで掲示し、取り消し線を引くという手法を採用した。

しかしこの広告は、多くの女性たちの怒りを買うことになった。SNS上では「逆効果だ」「知らなくていい言葉をわざわざ広めている」といった批判の声が相次いだのだ。広告が意図せずして「美の基準」を広めてしまい、知らなかった人々に新たなコンプレックスの種を植え付けてしまっていた。