【イスタンブール時事】イランのライシ大統領は、革命指導体制を統括する最高指導者ハメネイ師の後継候補に挙げられた有力者だった。事故死を巡りさまざまな臆測も流れ、指導部は「国政に混乱はなく、心配は無用だ」(ハメネイ師)と動揺回避に努めている。84歳のハメネイ師の後任をにらんだ権力闘争も予想され、地域大国イランの混迷は中東情勢の一層の流動化を招きかねない。
 ライシ師は2021年、得票率62%で大統領選に圧勝して就任した。欧米などと核合意を締結して対外的融和を志向した保守穏健派ロウハニ前大統領に代わり、8年ぶりの保守強硬派による政権交代だった。
 在任中は核開発の加速や中ロへの接近を図り、欧米諸国との対立が激化。今年4月には在シリア・イラン大使館空爆への報復としてイスラエル本土へ初の直接攻撃を仕掛けるなど、強硬姿勢が目立った。
 国内でも締め付けを強めた。22年には、頭髪を隠すために義務化されているスカーフを適切に着用していなかったとして拘束されていた女性が死亡し、大規模な反体制デモが発生。政権の弾圧で約500人の死者が出たとされる。
 ライシ師は来年の大統領選で、圧倒的知名度を武器に再選を目指すとみられていた。死去に伴い、選挙は今年7月初旬までに前倒しされる。最高指導者が絶対的権力を握るイランでは、今後も保守強硬派が主導権を握る構図は続く見通しだが、強硬派内にライシ師に代わる有力な政治家は見当たらない。一方の穏健・改革派も、3月の国会議員選挙で大半が立候補を認められずに排除され、国民が期待する実力者はいないのが実情だ。
 イランの行く末を左右しかねない次期最高指導者争いも不透明感を増す。任免権を持つ「専門家会議」は保守強硬派が多数を占め、会議のメンバーでもあったライシ師はハメネイ師の後継を見据えていたとされる。ライシ師亡き後はハメネイ師の息子モジタバ師が抜きんでた形だが、政治的実績に乏しく指導力も未知数で、政情の混乱と不安定化の火種になる可能性もある。 
〔写真説明〕イランの最高指導者ハメネイ師=10日、テヘラン(AFP時事)

(ニュース提供元:時事通信社)