2024/05/13
防災・危機管理ニュース
インド北部の連邦直轄地ジャム・カシミールの中心都市スリナガルで13日、総選挙の投票が行われる。同都市を「夏の州都」としていたジャム・カシミール州が2019年に解体されて以降初の選挙。自治権を剥奪された住民の政権に対する不信感は根強い。
◇候補擁立せず
「ヒジャブ」と呼ばれるスカーフをかぶった女性の姿が目につく一方で、この時期は国中で掲げられているヒンズー至上主義の与党インド人民党(BJP)の旗は見当たらない。スリナガルは、イスラム教徒が住民の大半を占めている。
国内で唯一イスラム教徒が多数派だったジャム・カシミール州は、かつて藩王国だった歴史的経緯から、憲法上特別な自治権が認められていた。しかし、モディ政権は19年にこの憲法規定を廃止。ジャム・カシミールとラダックの二つの連邦直轄地に分割した。パキスタンからの越境テロを防ぐための治安強化が名目だったが、政権のイスラム教徒に対する弾圧と受け止められた。
「反ムスリム(イスラム教徒)のBJPは嫌いだ」。市内で鳥肉販売店を営むイナヤット・トゥラバットさん(34)はこう語気を強め、「州の解体で仏教徒が多く住むラダックが分離した。(異なる宗教信者が)共に暮らす複合的な文化が壊されてしまった」と嘆息した。
BJPは今回の選挙でスリナガルを含むカシミール地方の三つの選挙区に候補者を擁立していない。地元メディアによると、過去約30年では初めて。当選の見込みが薄いと判断したとみられる。
◇乏しい経済恩恵
スリナガルの選挙区の候補者の多くは地域開発や雇用確保を公約に掲げる。特に若者の失業は深刻で、国際労働機関(ILO)の報告書によればジャム・カシミールにおける中等教育を受けた15~29歳の若者の失業率は22年時点で約34.8%。地元の大学院に通うシャウカット・サタールさん(25)は「19年以降テロは減ったが、経済は良くなっていない」と話す。
観光名所の湖周辺で魚を売っていた女性(35)は「人々は職を失い、魚を買うお金もない」とこぼした。政権は当時、連邦直轄地とする理由の一つに経済発展の促進を挙げたが、女性は「約束を守っていない」と批判。「私たちのために誰も何もしてくれない」と政治への不信感をあらわにし、投票に行くつもりはないと語った。
中心部は至る所に検問所が設けられ、銃を構えた治安要員が目を光らせていた。外国メディアは入域に際し政府の許可証が必要。取材には治安上の問題を理由に地元の警察関係者と情報当局者が同行した。情報当局者は「プロトコル(規約)に従っているだけ」と説明したが、政治的に敏感な地域だけに、メディアの監視を兼ねているとみられる。
〔写真説明〕11日、インド北部スリナガル近郊で開かれた総選挙候補者の集会
(ニュース提供元:時事通信社)

防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方