インド北部の連邦直轄地ジャム・カシミールの中心都市スリナガルで13日、総選挙の投票が行われる。同都市を「夏の州都」としていたジャム・カシミール州が2019年に解体されて以降初の選挙。自治権を剥奪された住民の政権に対する不信感は根強い。
 ◇候補擁立せず
 「ヒジャブ」と呼ばれるスカーフをかぶった女性の姿が目につく一方で、この時期は国中で掲げられているヒンズー至上主義の与党インド人民党(BJP)の旗は見当たらない。スリナガルは、イスラム教徒が住民の大半を占めている。
 国内で唯一イスラム教徒が多数派だったジャム・カシミール州は、かつて藩王国だった歴史的経緯から、憲法上特別な自治権が認められていた。しかし、モディ政権は19年にこの憲法規定を廃止。ジャム・カシミールとラダックの二つの連邦直轄地に分割した。パキスタンからの越境テロを防ぐための治安強化が名目だったが、政権のイスラム教徒に対する弾圧と受け止められた。
 「反ムスリム(イスラム教徒)のBJPは嫌いだ」。市内で鳥肉販売店を営むイナヤット・トゥラバットさん(34)はこう語気を強め、「州の解体で仏教徒が多く住むラダックが分離した。(異なる宗教信者が)共に暮らす複合的な文化が壊されてしまった」と嘆息した。
 BJPは今回の選挙でスリナガルを含むカシミール地方の三つの選挙区に候補者を擁立していない。地元メディアによると、過去約30年では初めて。当選の見込みが薄いと判断したとみられる。
 ◇乏しい経済恩恵
 スリナガルの選挙区の候補者の多くは地域開発や雇用確保を公約に掲げる。特に若者の失業は深刻で、国際労働機関(ILO)の報告書によればジャム・カシミールにおける中等教育を受けた15~29歳の若者の失業率は22年時点で約34.8%。地元の大学院に通うシャウカット・サタールさん(25)は「19年以降テロは減ったが、経済は良くなっていない」と話す。
 観光名所の湖周辺で魚を売っていた女性(35)は「人々は職を失い、魚を買うお金もない」とこぼした。政権は当時、連邦直轄地とする理由の一つに経済発展の促進を挙げたが、女性は「約束を守っていない」と批判。「私たちのために誰も何もしてくれない」と政治への不信感をあらわにし、投票に行くつもりはないと語った。
 中心部は至る所に検問所が設けられ、銃を構えた治安要員が目を光らせていた。外国メディアは入域に際し政府の許可証が必要。取材には治安上の問題を理由に地元の警察関係者と情報当局者が同行した。情報当局者は「プロトコル(規約)に従っているだけ」と説明したが、政治的に敏感な地域だけに、メディアの監視を兼ねているとみられる。 
〔写真説明〕11日、インド北部スリナガル近郊で開かれた総選挙候補者の集会

(ニュース提供元:時事通信社)