2024/02/22
令和6年能登半島地震

元日に発生した能登半島地震では、約1カ月半を経過した時点でも、2万人以上が避難生活を余儀なくされており、復興の道のりは厳しいことが予想される。40年以上にわたり、世界の災害対応を研究してきた京都大学名誉教授で前国立研究開発法人防災科学技術研究所理事長の林春男氏に、今後の復興の課題や、考慮すべき点を聞いた。

前国立研究開発法人防災科学技術研究所理事長 林春男氏
私は、災害発生からの時間の流れを10の係数でとらえるようにしています。被災地では、時間の経過とともに、最初のショックから、生命を守る期間を経て、生活の支障を取り除く期間、最後に財産被害から立ち直る期間へと移り変わっていくわけですが、通常の災害なら100時間ぐらいが命を守る期間で、1000時間ぐらいがインフラの復旧に要する時間に相当します。大体1カ月半程度になります。今回の地震は水道も道路もまだまだ時間を要すると報じられていますが、それだけ、過去の災害に比べ、地震の規模が大きかったことの影響でしょう。特に中山間地では土砂災害が多数発生し、砂地が多い日本海側では広範囲で液状化が起こり、地域全体に極めて甚大な被害をもたらしました。
生活再建に向けた復興の方向性
一言で被災地といっても、人口集積地と中山間地では起きている様相が異なります。今回の地震なら、人口集積地区では、石川、富山、新潟を含め、震度5弱以上の揺れを観測した都市部の広い範囲で、液状化などによって建物・ライフラインに集中的な被害が出ています。まずはこれらを復旧していく必要がありますが、中山間地は、震度6弱以上のとても強い揺れが発生した能登地域で、地盤災害(地すべり・土石流等)が起きていて、これらに対応していく必要があります。生活再建という最終目標に向け、どこから、どのように災害から立ち直っていくのかを考えていくことがとても大切ということです。
一方、被災者の立場からすると、まず仕事や学校が再開し、次いで、日々の生活が落ち着き、住まい問題が解決して、家計への影響が解消する。これらを経て、被災者意識が消失して、最終的に地域経済が回復したと感じるという傾向が、過去の災害で明らかになっています。

1995年の阪神・淡路大震災では、インフラは約2年で戻り、住宅は約5年で建て直され、まちづくりがほぼ終わったのが10年後です。ところが地域経済は元に戻らず「8割復興」などと言われました。
つきるところ、生活再建とは、仕事だけ戻せばいいとか、家だけ直せばいいとか、家計が戻ればいいという問題ではなく、経済と生活の両方を解決していく必要があるといことです。お金と住まいを戻すには、インフラが必要です。社会基盤を戦略的に再配置するとともに、住宅を再建し、経済を戻していく。これを同時に進めていく必要があります。
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