2013/08/08
防災・危機管理ニュース
日本安全保障・危機管理学会主任研究員
オオコシセキュリティコンサルタンツアドバイザー 和田 大樹
今日の国際政治経済は、米国のイラクやアフガンからの軍事撤退、スペインやイタリア、ギリシャなどで深刻化する欧州の金融危機、中国やインド、ブラジルなどを中心とする新興国の台頭などが顕著になり、冷戦終結による米国一極構造の国際体制から大きな変化を遂げようとしている。そのような流れに対し、米国の国際政治学者イアン・ブレマーは自身の著書“Gゼロ後の世界~主導国なき時代の勝者はだれか~”の中で、「今日我々はグローバルなリーダーシップを発揮できる国家が存在しないGゼロの世界に突入しており、その後の国際社会に表れる政治秩序としては、米中の対立的な関係(これは米ソ冷戦時のようなゼロサム関係ではなく、また互いにそのようにできる財政的余裕もない)に加え、地域レベルでの大国が各地に出現する地域分裂的な国際構造が最も考えられるシナリオだ」と指摘する。
このイアン・ブレマーの説に従って日本の国益を考えるのであれば、今後日本は政治経済的にもいくつかの厳しい局面を迎えることが予想される。
第1に米国の衰退だ。今日の経済発展を遂げた豊かな日本がある背景には、米国の財政的支援に基づく日本の戦後復興があり、さらに米国による核の傘の下に位置する日本は、依然として極東安全保障上の大きな利益を得ている。よって米国の政治経済的な衰退により、米国は内向き志向になるだけでなく、既存の軍事同盟体制においても同盟国に今以上の役割や負担を要求してくることが考えられる。
そしてそれに直結する問題として、第二に日中の関係悪化である。イアン・ブレマーも著書の中で強調していたが、今日の日中対立は歴史認識や尖閣問題など二国間の枠内から発生した諸問題が主な原因となっているが、米国の衰退はこの二国間関係をさらに複雑化させる潜在的な危険性を内在している。より具体的には、米国の政治経済力が相対的に低下することで、太平洋への海洋進出などを試みる中国により大きな行動の自由を与え、それにより東シナ海を巡る日中対立が先鋭化し、2010年9月の中国漁船衝突事件や2012年9月の尖閣国有化に端を発した中国国内での反日暴動やデモなどに発展するおそれがある。
上記のように、戦後日本は米国の関与と支援により革命的復興を達成し今日の繁栄を築いてきたが、それは米ソ冷戦期から今日に至るまで、日本が米主導の自由主義陣営に属し、長い間米国が国際社会でリーダーシップを発揮できる大国であったことに依拠している。またソ連の共産主義陣営の崩壊は、自由や民主主義、市場経済など米国流の政治的価値観や経済システムの世界全体的な拡大をもたらし、それによりヒト、モノ、情報が国境を越えて行き交うグローバル化社会が進展した。その中で日本はバブル以降経済の停滞を経験したものの、国際的には比較的有利な政治的、経済的、そして安全保障的環境の下で今日に至っているといえる。
今日の国際社会は以前とは比較にならないスピード、量でヒト、モノ、情報が行き交い、国家間の相互依存が進んでいる。そしてアジアやアフリカ、ラテンアメリカ諸国の経済的台頭により、グローバルエコノミーを牽引するアクターが増加し、今後も投資や貿易の拡大など経済の国境を越えた動きが減速する見込みは低い。しかし実際このグローバル化社会は、米国一極主義の国際構造化で機能してきたのであり、米国の衰退に伴うGゼロ世界におけるグローバル化社会がどのような姿を見せるかは分からない。ただはっきりとしていることがある。それは日本にとっては厳しい安全保障環境が到来し、政治経済的にもより自立した日本が求められるということだ。今日日本国内では憲法改正や集団的自衛権の行使など新たな安全保障改革が本格化しようとしているが、“経済力”というものは現代国際社会において国家のパワーを測る上で最も重要なバロメーターであることから、今後日本が戦略的な経済外交と企業進出を展開していくことが重要になってくる。
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