気候危機を前に人々はどう考えどう行動するのか(イメージ:写真AC)

■エビデンスだけではわからないこと

前回わたしは、気候危機を見据えた2030年のシナリオに少しでもリアリティを与えるために、TCFDやNGFSのシナリオ、信頼し得る科学的事実と世界の動向などを参考にすると述べた。現在のエビデンスをもとに、アナロジー的に将来の姿が見えてくるのではないかという期待からである。

しかし実は、こうしたエビデンスだけでは将来を見通せない一つの盲点があることも確かである。それは、なかなか読めない「人の心」だ。

身近な例を挙げると、みなさんが、脈がありそうな潜在顧客に向けて有用な情報をSNSで発信したとする。この情報を発信したからには、少なくとも興味を持った数十件ぐらいからは引き合いがあるだろうと考える。ところが、1社からも何の問い合わせもない。これが現実である。自分の頭で考えているように他の人々が考えているわけではないからだ。こればっかりは、マーケティングや行動経済学の本を何冊読んでも解決策は見えてこないだろう。

人の心の動きからくる世界のダイナミズムは読めない(イメージ:写真AC)

同じことは一国でも起こる。2017年の米国の大統領選で、民主党系の候補者や有権者の多くは、まちがってもトランプ氏が大統領になるはずはないとたかをくくっていた。しかし、結局彼は大統領に就任し、絵に描いたようなトラブルメーカーぶりを発揮して国家の分断と不安定化した世界を遺してしまった。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻はどうだろうか。もし今後、ロシアのような大国が戦争を起こすとすれば、ITを駆使したサイバー攻撃や情報戦が中心であり、流血や物的破壊を招くようなことは起こらない、残虐で泥臭い戦争は過去のものだと、おそらく誰もがそう思い込んでいたのではないだろうか。