2024/01/06
令和6年能登半島地震
珠洲市でコンサルティングを営む宮田修さん(仮名)は、地震の後、15時間をかけ、家族を連れて、金沢市まで避難をした。当時どのような状況だったのか、今何を想うのか、宮田さんに聞いた。
―地震が発生した当初は、どのような状況でしたか?
自宅で夕食の準備を終え、家族と一緒に過ごしている時でした。最初は、強い地震が来たなと思いました。その時は小さな子供たちを守り、落ち着いて行動できましたが、次の行動に出ようと思ったその時、比べられないほどの強い揺れが襲ってきました。強い揺れは3分以上続いたと思います。家族を守る行動が精一杯で、揺れが収まるまで耐えるしかありませんでした。家族の無事を確認し、安全を確保し外に出てみると、そこにあったのは変わり果てた自宅の姿でした。家は傾き、天井が抜け落ち、室内は様々なものが散乱していました。
―その後の対応は?
まず、家族の安否確認と安全の確保を行いました。次に近所の安否確認を家族で手分けして行い、余震が続いていましたが、安全に十分配慮しつつ、毛布や備蓄品を屋外に持ち出すなど、必要な物を取り出す作業をして、夜を迎えました。倒壊した母屋には入れませんでしたが、キッチンとリビングは増築した別棟にあったので、辛うじて準備しておいた食事で夕食をとり、その日は車中泊で朝を迎えました。
発災当初は一時孤立状態だったものの、徒歩で市街地に行くことができたので、状況の確認や、情報収集をして回りました。この時、近所でも複数の生き埋め情報に接しましたが、完全に一階が潰れており、救出活動はできませんでした。
余震回数が減って来たタイミングで、屋内の必要物資の搬出を行い、2日目も車中泊をしました。車中は氷点下にもなる寒さでしたが、ガソリンの減りを考え、暖房は数時間おきに30分だけつけ、あとは毛布で凌ぎました。3日目にガソリンスタンドが開いていたので給油し、親戚がいる金沢市へ脱出することを決めました。通常なら2時間半で行けますが、途中の道路状況が悪すぎて、15時間がかかりました。
―市内の状況は?
珠洲市は、三方を海に囲まれた半島の先端にある自治体です。市内へ行く道は限られ、その大部分はなんらかの影響により、通行止めになっています。この地域では昔、冠婚葬祭を各家々でやっていたこともあり、家が大きく、間取りで言えば、10LDKを超えるほどの広さがあるのが一般的です。老朽化している為、多くの家が倒壊し、救助や捜索が難航しています。また、一人暮らしの高齢者も多く、安否が分からない家もまだまだ多いと思われます。報道されていないような壊滅的な集落は複数点在していて、市民ですら、まだ実態の全容把握ができていません。相当深刻な被害です。
―今想うことは?
事業継続や危機管理を生業にしておきながら、いざ自分や会社が被災し当事者になってみると、つくづく自分の災害への認識、危機管理の大事さを甘く見ていたんだなと痛感させられました。事業継続のことをワードやパワーポイントに綺麗に資料としてまとめても、自然の脅威の前では、ことごとく使い物になりませんでした。
―今後の課題は?
今は、家族で被災地からは離れて避難していますし、生活の再建や日常を1日でも早く取り戻すのが第一優先だと感じています。課題は、住宅の再建をどうするかです。地震活動はまだ活発だと言われています。そんな中で住宅を再建しても、再び被害を受ける可能性も考えると、正直、厳しいです。
高齢化率が極めて高く、生活再建が厳しい住民もかなりいると思われます。年金暮らしの高齢者が住宅ローンや貸付けを受けたとしても返済はかなり困難になるのは明らかです。
また、珠洲市では、奥能登国際芸術祭を開催しており、昨年も約3万人が市を訪れ、観光や移住の増加に貢献してきましたが、現状の状態では次の開催が危ぶまれますし、近年、移住者が増えて来ていただけに、今後の人口減や流出に拍車をかけないか心配しているところです。
それに、今回の地震で私たちのように、一時的に地域を離れ避難している人も、再び戻って来る時が来るはずです。その時に、若いこれからの世代や子育て世代が生活の場を珠洲市に戻してくれるのか――。
ただでさえ、年々人口が減りつつある中で、市内唯一のショッピングセンターが、津波と地震の被害を受け、存続が懸念されています。スーパーやドラッグストアも被災し買い物もできない状況です。まだまだ課題は尽きません。
―全国の方に、呼びかけたい事は?
珠洲市をはじめ、今回被害の大きい、輪島市や能登町、穴水町を含む奥能登地域は、日本古来の伝統や文化を重んじ、後世に残せる貴重かつ重要なリソースが多く残っている地域です。その奥能登地域が今回の地震で壊滅的な被害を受け、人、もの、伝統、自然がこれまで以上に消えつつあります。私も地元が大好きですし、他の多くの住民や、離れていても地元を思う多くの人々がこの地域にいて、そんな多くの人が今被災者として希望のない明日を待っています。寒さや空腹に耐えながら、迫り来る余震と、いつまで続くか分からない、終わらない地震に耐えながら過ごしています。
企業の中には、被害が甚大な為、1年以上の休業を決めたところもありますし、多くの人に愛されながら焼けてしまった中華料理店もありました。逆に、自ら被災しながら、車中泊をしながら、住民達の再建に奔走している企業もあります。被災者支援のさまざまな活動を率先してやっていただいている社長もいます。
この地域には、残念ながら、大企業はありませんし、次世代技術も、華々しく注目される企業も少ないのですが、どうか、被災者への支援や再建に手を差し伸べていただきたいです。私たちは、これからどう日常を取り戻していけばいいのか分からず途方に暮れています。日本の技術で、安心して暮らせる地域にしていただけないでしょうか? 宜しくお願い致します。
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