ほぼ紙だけでできた仮設トイレ。耐水紙を使用しているため屋外で使用できる。周りに土のうやブロックを置けば耐風性も高められる。自社の実験では、風速15mでも耐えられることが実証できたという。

誰でも簡単に組み立てて設置することができる仮設トイレが誕生した。カワハラ技研(東京都中央区)が開発した「ほぼ紙トイレ」。その名の通り、素材はほぼ紙だけ。便槽となるタンク(樹脂)の上に、耐水性で強度が高い特殊な厚紙を六角形状に組み立て、硬質発砲スチロールでできた便器を設置すれば完成。壁はもちろん、タンクや便器にいたるまで、すべて可燃材で、使用後は、可燃性粗大ごみとして処分することができる(災害後は自治体の指示に従うことになる)。複雑な金具を一切使っておらず、工具を使うことなく、女性2人でも、20分あれば組み立てられるという。

災害後のトイレ問題を改善

被災地で毎度のように問題となるトイレ。断水や下水道、排管類の被災でトイレは使えなくなり、仮設トイレが運び込まれるまでは便器をビニール袋で覆ったタイプの非常用トイレが使われることが多くなる。NPO法人日本トイレ研究所が2013年3月11日に発表した「東日本大震災3.11のトイレ - 現場から学ぶ」によれば、仮設トイレが被災自治体の避難所にいきわたるまでの日数は、3日以内が34%、4~7日が17%、8日以上が49%を占める。また、仮設トイレが届いても、十分な数ではなく、すぐに満タンになってしまうこともある。

こうしたトイレの問題を解決しようと、同社では、普段は備蓄をしておいて、被災時に少人数ですぐに組み立てられることなどを設計コンセプトにした仮設トイレを開発した。壁の素材は、選挙用ボードに使われている白い厚紙。暴風にも耐え、撥水性が高く頑丈な紙だ。これに、基礎となる樹脂タンク(便槽)と、硬質発砲スチロールの超軽量の便器(約1.8㎏)を組み合わせるだけで完成。2つのパーツに分けて保管し、それぞれが30㎏程度の重さ。分散して運ぶことができるため、多少離れた場所でも2人いれば簡単に組み立てることができるという。

備蓄に必要なスペースも、便槽(縦横約1.3m、高さ60㎝)を除けば、あとは、壁部を折りたたんで写真下のように収納するだけ。便器は便槽に収納して保管することができるようになっている。

2基分を備蓄した場合
便槽に必要な備品すべてを収納

 

50人が1週間使える大容量

開発のきっかけになったのは熊本地震。
「被災地に行った環境省の方々から、トイレが不衛生で大変な状態になっているという話を聞き、自分たちだけで組み立てられるような仮設トイレが考えられないか検討を始めた」と代表取締役の川原愉氏は振り返る。
女性ボランティアへのヒアリングを通じて、女性への配慮も重視した。災害時でも気持ちよく使えるよう、色は清潔感のあるホワイトに。また、防犯性を高めるため、あえて内開きにし、夜間用のLED照明も標準装備とした。

一方、便槽は一般的な仮設トイレと比べてもかなり大きめの400リットルとした。「大人50人が約1週間使える量」だという。バイオ製剤により、防臭・抗菌対策も施している。

使用済みとなったタンクは、バキューム処理後は可燃性粗大ゴミとして所轄自治体の指示従い処分することになる。フォークリフトでも運びやすいよう、便槽の下部には、フォーク部先端のツメが刺さるスペースを設けるなど細かな点まで配慮している。

すでにこのトイレを導入した大手物流施設では、災害時に、自社の社員だけではなく、周辺の住民にもトイレを貸し出すことを決めているという。川原氏は「紙製のため、簡単に外壁に自社のロゴを入れることができ、CSRの一環にも役立てられるのでは」と話している。

(了)