「パーマクライシス」をご存じですか?
「パーマクライシス」とは
英語辞典の出版で知られるハーパーコリンズのイギリス法人は、2022年を代表する言葉に「パーマクライシス(permacrisis)」を選びました1。これは、「永続する」という意味の「パーマネント(permanent)」と「危機」を意味する「クライシス(crisis)」を併せた言葉で、コリンズは「破滅的な出来事が続く2」と定義しています。日本語に直訳すると「永続的な危機」となります。
この用語が浸透し始めたきっかけは、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が長期にわたり世界中で拡大したため、また、ロシアによるウクライナ侵攻が欧州や米国等にも影響して不安定になり、更に先の見通せない危機的な状況が継続しているためと考えられています。
ユーロ圏財務相(ユーログループ)のドナフー議長によると「パーマクライシス」は、2008年にフランスの社会学者エドガール・モラン等によって提唱された「ポリクライシス(polycrisis)」の概念から発展したといいます3。「ポリクライシス」は「複合的な危機」という意味です。
例えば、日本経済団体連合会十倉会長は、今年の5月に「現在社会は、気候変動や経済安全保障等の社会課題が複雑に絡み合い、より大きな危機を生み出すポリクライシスに陥っている」と発言しています4 。また、特殊鉄鋼倶楽部福岡会長は、1月に「最近の世界情勢を一言で表現すれば、パーマクライシスの時代ということが出来ると思います」と「パーマクライシス」に触れています5。
現代社会における相互に密接に関連したシステムでは、影響は非常に迅速かつ広範に伝わります。いずれの単語も、危機的状態が発生すれば長期にわたりその状態が維持され、そこで連鎖反応が起これば、破局的な結論を引き起こす可能性を示しています。
前出のドナフー議長が示したように、「クライシス」が「ポリクライシス」から「パーマクライシス」に発展したとすれば、これからは単一の危機の根幹を解決することに主眼を置くのではなく、「パーマクライシス」に耐えられる強靱な組織が必要とされるでしょう。
「パーマクライシス」が発生する背景
現代社会は経済、環境、地政学、社会、テクノロジー等の分野が地域をまたいで相互に連携しています。ある分野の不安定化は、増幅して他の分野に影響を与えかねません。
例えば、ロシアによるウクライナ侵攻は、両国の軍事的衝突にとどまることなく、ヨーロッパのエネルギー供給低下、世界各地の燃料価格の高騰、ウクライナからの輸出減少による食料危機、世界各地におけるウクライナ人の移住課題等を引き起こしました。加えて、一部の国では、ウクライナ支援から自国保護という右傾化が顕在化しています。
また、世界各地で散発する山火事の要因は、地球規模で課題となっている気候変動との関連も指摘されています。今後、山火事の多発により、災害に脆弱な地域から非自発的な移住が発生し、都市部への人口集中が更に強まり、雇用危機や生活費高騰等の問題が更に深刻化するかもしれません。
イスラエルとパレスチナ自治区との紛争では、既に世界各地でアメリカとイスラエル対アラブという二極化の対立構造が発生しつつあり、イスラム過激派による潜在的なテロ脅威や憎悪犯罪(ヘイトクライム)が顕在化しつつあります。先端技術のスタートアップが多いイスラエル企業による技術進展の遅延やサプライチェーンへの影響も懸念されています。
このように単発的な事象が発生した際に、それが世界各地で発生している様々な要因に重層的に波及し、あるいは新たな事象を誘引し結果的に地域や組織の不安定化につながる可能性を、常に意識する必要があります。
単一事象の世界各地への波及について、関連性をわかりやすく示した図が世界経済フォーラム発行の「グローバルリスク報告書2023年版」に掲載されています。
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