2023/08/03
事例から学ぶ

ICT 大手のNEC(森田隆之社長、東京都港区)は2010年代から、BCP/BCMプロセスの効率化を進めている。活動の持続性をより高めることがねらい。計画書の精緻さよりも「わかりやすさ」「動きやすさ」「継承のしやすさ」に重点を置いた。誰もがBCPの内容を理解し、緊急時に主体性をもって事業継続を行うことができる組織を目指す。
NEC
東京都
※本記事は月刊BCPリーダーズvol.41(2023年8月号)に掲載したものです。
❶3つの対策本部の連携体制
・災害時は「中央事業継続対策本部」「地区別災害対策本部」「BU(ビジネスユニット)別事業継続対策本部」が連携する体制。本社BCP事務局のほか、各BUにも実務担当者となる「BCP推進者」を配置。
❷BCM活動の効率化
・BCP策定・見直しに必要な関係書類を集約・簡素化してプロセスを短縮。またBCPレビューでも質問項目を従来の4分の1に絞り込み、システム管理を導入してプロセスの可視化・効率化を推進。
❸「持続可能なBCP」で事業継続力を向上
・目指すビジョンは「持続可能なBCP」。わかりやすく、動きやすく、継承しやすいシンプルなBCPにより、誰もが主体性を持って動ける組織を構築することで、事業継続の実効性向上を実現する。
NECのBCPは現地復旧を基本に置く。情報通信はいまや、社会機能維持に欠かせない基幹インフラ。同社の拠点存続は一企業の生き残りの枠を超え、顧客の事業継続、さらに市民の生活継続に直結している。被災地と一体となった復旧活動は必然だ。
「データセンター事業などはもちろん冗長化が必要。しかし工場や事業場は、被災後一時的にほかで業務を行うことはあっても、移転することはありません。『代替戦略』に重きを置いていない。あくまで地域と一体の復旧が基本」。BCP事務局を務める人事総務統括部リスクマネジメントグループの槙野圭祐さんはそう説明する。
自社施設はすべて現行耐震基準を満たすも、周辺の状況次第で影響は大きい。電気・水道・ガス・通信、道路、鉄道、それぞれの被害を想定し、復旧シナリオに応じて事前準備と初動対応を決めている。NECグループが開発・運用に参画している、周波数帯を二重化して輻輳が起きにくい無線(MCAアドバンス)を利用、担当役員や対策本部メンバーらへ配備しているのもその一環だ。
3つの対策本部
海底ケーブルから人工衛星まで、広範な情報通信領域を網羅して事業を展開するグローバルカンパニー。拠点は世界289カ所に及び、従業員数は12万人を数える。2006年、内閣府の「事業継続ガイドライン第一版」を即時キャッチアップするかたちでBCPを策定した。対象としたハザードは地震だ。
災害時の活動は、3つの対策本部の連携体制で推進する。

第一が、社長を本部長とする「中央事業継続対策本部」。緊急時の中枢となる組織で、本社の人事総務統括部リスクマネジメントグループが事務局を務める。組織全体の指揮を司るとともに、各拠点・各事業部門を後方支援するのが役割だ。
第二が、被災を受けた場の復旧、すなわち事業場や支社・支店、工場などの復旧を担う「地区別災害対策本部」。主要拠点の集積エリアごと、現在は北海道、東北、関東、中四国、玉川、府中、相模原など13地区に設置し、建物の点検、従業員の安全確保、二次災害防止などを担当する。
第三が、顧客やサプライヤーへの対応にあたる「BU(ビジネスユニット)別事業継続対策本部」。現在は「パブリック」「エンタープライズ」「テレコムサービス」など、8つのビジネスユニットに設置している。取引先の被災状況の集約、事業復旧要員の確保などが主業務だ。
8月8日(火)16:00~17:30 オンライン開催 詳しくは下記より。
https://www.risktaisaku.com/articles/-/81141
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