持ち運び可能なアンテナ

イーロン・マスク氏がCEOを務めるスペースXが開発した「Starlink」のBCPや災害対策における期待が高まっている。携帯キャリアのauを中心とする電気通信事業を行っているKDDIでは、スペースXと共同で技術検証を実施。2022年12月から法人・自治体向けに「Starlink BUSINESS」の提供を開始した。被災地など、インターネット通信が途絶した地域でも安定した回線を提供できることから、新たな通信手段として注目されている。

Starlinkは、スペースXが開発した衛星ブロードバンド回線。従来の衛星通信サービスでは、1基の静止衛星を使っていたため、データが往復するのに時間がかかって通信速度が遅延することが避けられなかった。しかしStarlinkは数千機の通信衛星とStarlink端末をつなぐ「コンステレーション」という仕組みのため、どこにいても、速い速度での通信が可能となる。仕様上、Starlink端末の通信速度は最大220 Mbps。KDDIによると、これまでのさまざまな実証実験においても、インターネットがつながりにくい地域であっても、安定して150Mbps程度の速度を計測しているという。

従来のサービスであれば、山間部など電波が入りにくい地域でオンラインミーティングなどを行った場合、ワンテンポずれて映像や音声が届くため会話がしずらいといったことも頻発していたが、Starlinkであれば、常にリアルタイムでスムーズな会話が可能となりそうだ。

山間部などの工事でも通信が可能に

もう一つの大きな特長が、光ファイバーを引き込めないような場所でも簡単に通信環境が作れること。トンネル工事やダム工事などの工事では、人がほとんど住んでいない場所が現場になる。こうした人がほとんどいないこのような環境では、光通信の基地局などもないため、インターネット通信ができない。しかしStarlinkなら、Starlink端末と簡易電源さえあれば、即座にインターネット通信を開始することができる。

設置例

KDDIでは、Starlinkをau基地局のバックホール回線として利用する「Satellite Mobile Link」と、法人・自治体向けの「Starlink BUSINESS」プランの2種類を提供している。

「Satellite Mobile Link」は、au基地局を経由して、Starlinkとパソコンや携帯電話などの端末をつなぐ。一方の、「Starlink BUSINESS」は、Starlink端末を経由して、Starlinkとパソコンや携帯電話などの機器を接続する仕組みになる。法人・自治体向けに、2022年12月に提供を開始した。au基地局を介さずに通信できるのが特徴で、Starlink端末からデバイスまではWi-Fiや有線LANを使用する。基本的に半径50m程度の範囲で通信が可能となっており、市販のWi-Fiや有線LANを使用すれば、複数台の端末を接続することができる。

 

StarlinkBUSINESSのコストは、Starlink端末が約40万円、月々の使用料が月額約8万円(端末を一定箇所に固定して利用する場合)、または約16万円(持ち運びが可能なプラン)となっている。このほか、故障時の修理・交換などのサポートに対して一定の料金が発生する。

Starlink端末は7㎏ほどの重さのアンテナタイプとなっており、一定の場所に固定して使用することもでき、車などに搭載して持ち運び、通信したい場所に置いて使用することもできる。内部にはヒーターがついているため、天候によって利用が制限されることはないという。

BCP対応や地震などの自然災害への備えとして活用したいというニーズも多く、2023年2月時点で500件以上の問い合わせが寄せられているという。

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リスク対策.com 編集部