2012/11/15
防災・危機管理ニュース
宮城県総務部危機対策課 菅原正
レジリエンス・ポイント
①検証にあたっては、中立かつ専門的な視点で行う必要から、阪神淡路大震災を期に設立された「人と防災未来センター」の協力を得た。
②庁内関係機関のヒアリングにより、現場の声を吸い上げ、検証をの防災施策に反映をすることを目的としている。
③今後は、庁内のみならず、宮城県内の震災記録をとりまとめ、検証することで関係機関を含めた、県全体のレジリエンス向上を目指している。
平成24年3月に刊行した「東日本大震災―宮城県の6か月間の災害対応とその検証―」(以下「検証報告書」という。)は、大震災発災後から概ね半年間における宮城県の初動期から応急復旧期の災害対応について明らかにし、そして検証することで本県はもとより他自治体等における大規模災害への強化を図ることを目的に取りまとめた。
検証報告書では、応急復旧対応にあたってボトルネックとなった様々な事象を洗い出し、今後の教訓としているが、ここでは県民生活に直結した主な課題について、従前の計画はどうであったか、被災してどうであったか、改善の方法はどうかについて紹介したい。なお、検証報告書は宮城県ホームページに全文掲載している。
宮城県ホームページ 東日本大震災-宮城県の6ヶ月間の災害対応とその検証-
1.情報不足
震災前は地域防災計画に基づき、防災行政無線による電話とファクシミリを整備し、複数の回線により市町村間の情報伝達を行っていた。しかし、今回の地震と津波により、庁舎そのものが被害を受け通信機器が損壊流出し、通信の殺到に伴う回線の輻輳により、県の3つの合同庁舎、5つの市町との連絡が不通またはつながりにくい状況となった。発災直後は、個人や役所所有の携帯電話で、非常につながりにくい中でも連絡を取り合い安否の確認、被害状況の収集を行った。その後、通信強化のため可搬型無線機や衛星携帯電話を調達し仮設の庁舎へ空路陸路で輸送し通信手段を確保した。教訓としては、救援救助に対する情報の的確な収集のため災害に強い通信手段の整備や、衛星携帯電話を行い、東日本大震災の教訓を今後県だけではなく複数箇所への配備も必要だということである。さらに、長時間にわたる停電、燃料不足に対応するため発電機とその燃料の確保も必要である。
2.燃油不足
地域防災計画では燃料等の生活必需品の調達は広域応援協定を締結している民間団体から調達することとしていた。しかし、地震津波により関東以北の主要な製油所や油槽所18カ所の内7カ所が被災し、東日本全体の燃料供給能力が激減し、また燃料を運ぶタンクローリー車も被災した。そのため緊急物資を輸送するためのトラックや応急工事にかかる重機、一般用のガソリン、病院や福祉施設避難所などの燃料不足が深刻化し、被災地の応急復旧活動が停滞する状況となった。燃油不足解消の取り組みとして、まず被災地の初期対応のため国や石油元売り各社へ支援要請を行い、一定量の提供を受けることが出来、自衛隊や県トラック協会の協力により配送した。この間、ダメージの比較的少なかった塩釜油槽所の復旧を急ぎ、発災から10日後の3月21日に震災後初のタンカーが塩釜港に入港し、同27日には大型タンカーが入港することでようやく燃油不足が解消された。教訓としては、今回のような広域かつ大規模な災害では、国の燃料供給体制及び広域的な燃料確保体制の構築が必要だということである。なお燃料不足への対応は、燃料対策特別チームを組織してあたったことが、効果的に当業務を遂行できた要因と考える。
3.食料・飲料水の確保
地域防災計画では食料、飲料水は予め調達体制を整備し、供給の確保に努めることとしていた。しかし、宮城県ではピーク時で約32万人の避難者がおり、これらの方々に必要となるパン・おにぎりなどの食数の確保の問題が発生した。加えて、道路の寸断や離島・半島部などの配送困難地域が多く発生した。宮城県では、応援協定を締結していた「みやぎ生協」や政府からの調達、他県からなどの援助、自衛隊や県トラック協会の協力により、被災地に1日数十万食を提供できる体制を構築したが、様々な問題も生じ、例えば、遠距離配送のために時間を要し、半島部などの遠地には消費期限に間に合わないことがあったり、遅配や誤配もあった。教訓としては、食料確保や配送困難地域への対応は、防災協定の締結団体や自衛隊などとの連携・協力が不可欠であるということである。
以上のような事象が表出した。応急復旧対策の業務継続という視点では、このようなボトルネックを予め念頭に置き、その事前の対策を講じていく必要があったであろうが、多くが「想定外」の事象であり、その場その場における対応に終始せざるを得なかった。検証報告書ではその総括として、宮城県では過去の宮城県沖地震などを踏まえた事前対策等を行ってきたが、巨大広域災害である東日本大震災には十分ではなかったとし、今後の災害発生時に応急復旧対策を円滑に行うためには、過去の災害にのみとらわれることなく、災害発生前から実効性の高い防災計画や訓練など「事前の備え」を強化する必要があると結論づけている。
宮城県では、今後さらに市町村やライフライン機関など対象を広げ、検証記録を継続し、東日本大震災の教訓を後世に伝えていきたいと考えている。同時にこれらの取り組みを、各都道府県や関係機関をはじめ広く様々な団体等において災害の備えとして活用していただければ幸いである。
※宮城県内のガソリンスタンドの稼働状況(3月22日)は702店舗中、営業中は77店舗、うち緊急車両のみ対応が43店舗であった。
※3月18日から22日にかけて、ドラム缶約850本(灯油缶8500個相当)を県内の市町村に配送した。
【執筆者プロフィール】
菅原正
宮城県総務部危機対策課課長補佐(総括担当)(災害対策検証・記録チームリーダー)
【略歴・実績等】
2011年、東日本大震災当時は、宮城県農林水産部農林水産総務課調整班長として、部内に初動対策チームを設置するなど震災復旧・復興体制を構築し、同年7月に総務部危機対策課に異動した後は、避難所運営や支援物資の総合調整に従事する。現在は、大震災における災害対策の検証・記録に取り組んでいる。
転載元 レジリエンス協会 会報 レジリエンス・ビュー 第5号
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