大規模太陽光発電システム(メガソーラー)
 
リスクエンジニアリング事業本部 リスクエンジニアリング部 主任コンサルタント 土師 賢之    
リスクエンジニアリング事業本部 リスクエンジニアリング部 主任コンサルタント 安藤 悟空

■はじめに

東日本大震災以降、日本国内では「電力供給不足問題」が大きな話題となっており、電力使用量が多い夏および冬に、政府は各企業に節電を呼びかけた。こうした背景を受けて、再生可能エネルギーの普及・拡大を目的とした「再生可能エネルギー特別措置法による再生可能エネルギーの固定価格買取制度」が、2012年(平成24年)7月1日から始まった。

再生可能エネルギーには「エネルギー源として永続的に利用することができると認められるもの」である太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、大気中の熱その他の自然界に存する熱、バイオマスが規定されている。資源が枯渇せず繰り返し使え、発電時や熱利用時に地球温暖化の原因となる二酸化炭素をほとんど排出しないことが特徴である。

再生可能エネルギーを利用した太陽光発電事業は、発電した電力の買取価格が高く事業性が見込めることや、CSR(企業の社会的責任)の観点などから多数の企業が参入を表明している。特に多数の1MW(メガワット)以上の発電能力を有する大規模太陽光発電システム(以後、「メガソーラー」と表記する)への投資計画も含まれている。

太陽光発電システムは稼動部がないことや、これまで住宅用に設置されていた実績などから設置後のメンテナンスが容易で、事故が少ないという印象を受けやすい。今まで、事故報告例は少ないが、メガソーラーより普及が進んでいる住宅用の太陽光発電システムでは、不具合の報告が確認され始めている。そのため、企業が太陽光発電事業に参入するにあたり、メガソーラーなどの太陽光発電システムの事故リスクを把握し、対策を実施することが重要と考えられる。

本稿では、太陽光発電システムの基本的な構成や種類、普及状況を整理し、想定されるリスクについて報告する。

1.太陽光発電システムの構成

太陽光発電システムは、太陽電池やパワーコンディショナーなど、数多くの電気機器・設備で構成されている。本章では各電気機器・設備について説明する。

■1.1.太陽電池
太陽電池とは、光エネルギーを直接電力に変換する機器である。ひとつの太陽電池を「セル」と呼び、これを複数枚直並列接続させ、必要な電力と電流を得られるようパッケージされたものを「太陽電池モジュール」と呼ぶ(以後、太陽電池モジュールを「太陽光パネル」と表記する)。さらに、この太陽光パネルを複数枚直並列接続させたものを「太陽電池アレイ」と呼ぶ。

現在さまざまな種類の太陽電池が開発されており、各種太陽光パネルについての特徴を表1にまとめる。

※太陽電池の原理


太陽電池は、動きやすい電子(伝導電子)が多く、電子が逃げやすい性質を持つ『n型半導体』と、伝導電子が少なく、電子不足の場所(正孔)を持つ『p型半導体』が、積み重なった構造をしている。電子は光に敏感なため、太陽光パネルに光が当たると、以下のような事象が起こり、発電される。

 (1)太陽光がパネル表面に当たる
 (2)n型半導体の電子が光のエネルギーを吸収する。
 (3)エネルギーを吸収した電子が、外部の電気回路へ押し出される。
 (4)電気回路を通じて、p型半導体へ電子が戻り、正孔と結合する。

※1:独立行政法人産業技術総合研究所「太陽電池の分類」を元に当社で作成
(アクセス日:2012-10-18)
※2:独立行政法人産業技術総合研究所「太陽電池の分類」を参考に当社で作成
(アクセス日:2012-10-18)

1.2.パワーコンディショナー(PCS)


太陽電池で発電された直流電力を交流電力に交換し、商用電力系統に連系する装置である(図2)。電力系統と整合の取れた電力にするため、周波数、電圧、電流、位相等を制御している。また、日照状況に合わせて、自動で運転の開始・停止を行う機能や、異常検出時、PCSを停止させ、系統側の安全を確保する機能も備えている。                  

1.3.その他の電気機器・設備
 メガソーラーに設置されている太陽電池、パワーコンディショナー以外の主な電気機器について、以下に示す(表2)。

※3:独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「大規模太陽光発電システム導入手引書」から抜粋
※4:当社作成

2.メガソーラーとは

2.1.メガソーラーの規模


メガソーラーの「メガ」とは発電量の単位を示し、1MW(メガワット)以上の発電能力を持つ大規模な太陽光発電システムを「メガソーラー」と呼んでいる。住宅用の太陽光発電システムでは発電量は3~5kW程度であることからも、メガソーラーは極めて大きな発電量を有するシステムであると言える。また、メガソーラーで使用される太陽光パネルの設置枚数は少なくとも数千枚以上あり発電量が数十MWとなるような発電所では、数万枚単位で設置されることもある。このため、メガソーラー発電所には、非常に広大な土地が必要とされている。

※5:独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「大規模太陽光発電システム導入手引書」から抜粋

2.2.電気系統系
図3にメガソーラーと住宅用の電気系統系について示す。住宅用では太陽光パネルで発電した電力を接続箱へ送電し、そのままPCSへ接続し、家庭内および売電で消費される。一方、メガソーラーでは太陽光パネルの枚数が膨大となるため、ひとつの接続箱では対応できないことが多く、接続箱が複数に分けられている。この場合、集電箱という機器で一度電力を集約してから、PCSへ送電する。PCSも複数台数設置されていることが多く、コンテナボックスと呼ばれる建屋に格納されている。その後、変圧器で電圧を変えて、商用電力系統に連携する仕組みとなっている。

メガソーラーと一般家庭用の構成を比較すると、太陽光パネルで発電した直流電力を集めて、PCSで交流に変換し、商用電力へ送電する流れや、システムを構成する設備の役割はそれほど変わらないが、集電箱、分電盤および変圧器の有無や容量などに違いがある。また、メガソーラーで使用されている太陽光パネルは、住宅用太陽光発電システムと同様のパネルが使用されている。

3.メガソーラーの普及状況

本章では、国内、海外におけるメガソーラーの普及状況について示す。

3.1.国内におけるメガソーラーの普及状況
2011年(平成23年)10月時点で、計画中のものを含め、メガソーラー事業の運営件数は、電力会社が運営しているものが26件、一般企業など電力会社以外では47件、計73件が稼動または計画・建設されている状況である(図4、5)。発電効率は日照量に影響するため、メガソーラー発電所は沿岸部に設置されるケースが多い。また、再生可能エネルギー特別措置法の施行により、今後大幅な増加が見込まれている。現在稼動中のメガソーラー発電所は1MW程度の発電量のものが多いが、今後計画されているメガソーラー発電所の中には10MWを超える高発電量の発電所の建設が多数予定されている。

※6:経済産業省資源エネルギー庁「我が国における再生可能エネルギーの現状」より抜粋
※7:経済産業省資源エネルギー庁「我が国における再生可能エネルギーの現状」より抜粋

3.2.海外におけるメガソーラーの普及状況


海外に目を向けると、世界各国でも開発が進んでおり、極めて大きな規模の施設も作られている(表3)。現在稼動中の発電所の中で最大のものはウクライナのPerovo発電所で、発電量100MWであるが、今後インドの太陽光発電所で、複数のプロジェクトを1ヶ所に集約し、総発電量600MWのメガソーラー発電所の建設が計画されている。

なお、現時点で国内での日本最大のメガソーラー発電所は、出力13MWの神奈川県川崎市にある扇島発電所であるが、今後出力70MWのメガソーラー発電所が建設される予定もあり、日本でも大規模な発電所の運営が加速すると予想される。

※8:経済産業省資源エネルギー庁「我が国における再生可能エネルギーの現状」を参考に作成

4.メガソーラーのリスク

本章では、はじめに太陽光発電システムの機器構成と設置環境から想定される主なリスクを紹介する。また、類似したシステム構成である住宅用の太陽光発電システムの事故例も紹介する。

4.1.メガソーラーにおいて想定されるリスク
太陽光発電システムの各構成要素の特性と設置環境から、想定される主なリスクを表4に示す。太陽光パネルなどの発電設備は屋外に設置されているため、自然災害による被害を受けやすく、稼動部が少ないため機械的リスクは小さいと考えられる。なお、本稿では主に自然災害リスクを記載し、性能リスクや天候リスクについては記載していない。

※9:当社作成

※10:国土交通省「建築確認手続き等の運用改善(第二弾)及び規制改革等の要請への対応についての解説」 こちら

4.2.住宅用太陽光発電システムの不具合内容との比較
独立行政法人製品評価技術基盤機構の事故情報データベースでは、雪害、地震による津波および塩害による事故が公開されている(表5)。

塩害は施工不良が原因であったが、機種の選定を誤ると塩害被害が発生することや、積雪や津波により実際に被害が発生していることを確認することができた。


※11:独立行政法人 製品評価技術基盤機構

「事故情報の検索」

より抽出


(アクセス日:2012-10-18)

5.まとめ

本稿では、再生可能エネルギーのひとつである、メガソーラーの基本的な構成を紹介し、自然災害リスクを中心に想定されるリスクを整理した。

次に構成が類似している家庭用太陽光発電システムの事故事例を確認し、メガソーラーで想定される事故が実際に家庭用太陽光発電システムで起こっていることを確認することができた。このことから、今後同様の事故がメガソーラーでも発生することが推察される。また、昨今の普及状況から、海外の太陽光パネルメーカーも多数参入してきているため、将来的に、低コスト化により機能および品質にばらつきがでてくる可能性があり、本稿で紹介した想定リスク以外の事故が発生するおそれもある。

また、今回取り上げた自然災害リスクの中では、地震に伴う津波リスクによる損害額が大きくなることが予想されるため、沿岸部に設置する場合は十分にリスクを留意する必要がある。

今後も、メガソーラー事業は拡大していくと考えられるため、企業は潜在および顕在化したリスクがあることを認識し、十分な対策を行ったうえで参入することが重要であると考える。

【参考文献】
「大規模太陽光発電システム導入の手引書」

【執筆者】
■土師 賢之 Takayuki Haji
 リスクエンジニアリング事業本部リスクエンジニアリング部
 主任コンサルタント
 専門はプロパティリスク評価およびリスクコントロール

■安藤 悟空 Goku Ando
 リスクエンジニアリング事業本部リスクエンジニアリング部
 主任コンサルタント
 専門は製造物責任(PL)

【本レポートに関するお問い合わせ先】
NKSJリスクマネジメント株式会社
リスクエンジニアリング事業本部 リスクエンジニアリング部
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転載元:NKSJリスクマネジメント株式会社 NKSJ-RMレポート76

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