ご来光を拝むのが恒例行事だが(写真:写真AC)

■またいつものアレだ…

ハルトの職場の先輩ヒデさんには恒例行事があります。富士山が山開きをする7月前半の週末、天気がよければ学生時代の知人と富士山に登って、山頂からご来光を拝むことです。金曜日の夜遅くまで残業し、帰宅してすぐに登山に出かけることも珍しくはありません。

しかし、なんといってもヒデさんはもう40代後半です。あまり無茶なことばかりやってたらダメですよと、口癖のように奥さんに注意される今日この頃ですが、ヒデさんとしてはその無茶な登山をこなすことが、自分の健康と体力をはかるバロメーターの一つだと考えている節があります。辛い山登りをクリアしたとき「まだ自分は耐えられる、頑張れる」という実感を得ることに生きがいを感じているのです。

ご来光を拝むためハードスケジュールで暗いうちに出発(写真:写真AC)

今回の富士登山もいつものパターンです。帰宅して家族と夕食をとる。おなかが落ち着く間もなく知人が車でヒデさんを迎えに来てそのまま富士吉田口の山岳道路をまっしぐら。午後9時過ぎに5合目の駐車場に着いてすぐに身支度を整え、ヘッドランプをつけて出発です。6合目、7合目と順調に高度をあげ、いつも通り8合目(標高3200メートル付近)にある山小屋に到着すると、ここで仮眠をとりました。2時間ほど経って目覚めたら、ビスケットをかじりながら熱いコーヒーで飲み下してすぐに出発です。

8合目を出発して間もなく、知人がヒデさんに「調子はどう?」とたずねました。ヘッドランプに照らされたヒデさん、あまり顔色がよくありません。「また始まったよ…」。これがヒデさんの返事でした。

■知識だけの対策だけでは限界かも?

実はヒデさんには、日本一標高の高い富士山ならではのちょっとした弱点があったのです。「いや参ったなあ。頭がガンガンして少し吐き気もする。いつものように気合で乗り切るしかない」

彼らが富士山頂に登り着いたのは午前5時過ぎ。日の出には間に合いませんでした。ヒデさんは気をつかってくれた知人に少し申し訳なさそうな顔をしながら、こんなことを言いました。「もう富士登山は今年限りでやめようかな。どうも高山病だけは克服できそうにない…」

しかし高山病は気まぐれなもので、下山すればケロッと治るのが特徴です。山を降りて体調が回復したヒデさんは、自宅に戻ると再び鼻息を荒くしました。「これしきのことで恒例の富士登山をあきらめてなるものか。来年こそきっちりリベンジしてやるぞ!」

さまざまな高山病対策を実施するも(写真:写真AC)

これまでヒデさんはネット検索を通じていろいろな高山病対策の知識を吸収し、実践してきました。深く呼吸をして十分な酸素を体内に取り込めるようにゆっくり登る、水分を多く採る、空腹を避ける、頭痛薬を服用する、酸素ボトルを買って吸うなどなど。高度に慣れるために8合目の山小屋で仮眠をとることも高山病対策の一つでした。

彼は少し困惑気味につぶやきます。「知人はまったく平気だから、お酒の強い弱いと同じように単なる体質や個人差なのかもしれんが、だからといって富士登山をあきらめるのも癪だしなあ…」