2022/10/21
事例から学ぶ

気象の激甚化による災害リスク、脱炭素社会への移行にともなう市場リスク、それらをシナリオ分析から読み解き、事業に与える影響をサプライチェーン全体で評価。これを手がかりに経営へのプラス・マイナスを見極め、リスク低減活動やビジネス機会獲得につなげる。気候変動対応はいまや、企業のリスクマネジメントの重要テーマだ。キリンホールディングス(東京都中野区、磯崎功典代表取締役社長)の取り組みをQ&Aで紹介。
記事中図表提供:キリンHD
キリンホールディングス
【回答者:コーポレートコミュニケーション部】
※本記事は月刊BCPリーダーズvol.29(2022年8月号)に掲載したものです。
2017年からシナリオ分析を開始し、事業に極めて大きな影響を与えるリスクを把握。
Q. キリンホールディングスの気候変動リスク対応を教えてください。
キリンホールディングスでは、気候変動リスクと機会を事業会社の戦略に反映させています。緩和策としては、RE100への加盟やSBT1.5℃対応などの具体的な目標の設定、キリンビール名古屋工場・仙台工場の使用電力を100%再生可能エネルギー由来とすることや国内ビール7工場でのPPAによる大規模な太陽光発電の導入などがあります。
適応策は、スリランカの紅茶農園での持続可能な農園認証取得支援や、ベトナムのコーヒー農園への取得支援の展開、森林保全のための日本飲料事業の紙容器のFSC認証紙使用比率100%達成などです。これらには、シナリオ分析の結果が反映されています。2021年は気候変動をはじめとしたさまざまな環境課題を各事業会社の経営戦略に落とし込むべくキリングループの「CSVコミットメント」を大幅改定し、2022年度からの中期経営計画に反映しています。
※RE100:事業活動で消費するエネルギーの100%再生可能エネルギー調達を目指す国際的イニシアチブ。
※SBT:温室効果ガス排出削減目標で、パリ協定が求める水準に合わせて設定される。サプライチェーン全体での排出量削減が求められる。
※PPA:電力販売契約。施設所有者が提供するスペースに太陽光発電設備の管理会社(PPA事業者)が設置したシステムで発電された電力を、その施設の電力使用者へ有償提供する仕組み。
Q.TCFD へ賛同した経緯は?
キリングループでは、2017年6月末にTCFD最終提言が公表される以前より、自然資本で成り立っている企業として生物資源・水資源に関する課題を認識し、さまざまなリスク調査を行ってきました。
生物資源では、2010年にキリングループ生物多様性保全宣言を策定した後、2011年に生物資源のリスク調査を行い、2013年には紅茶葉、紙、パーム油を対象に「生物資源利用行動計画」を策定して取り組みを進めてきました。
水資源では、サプライヤーや事業所へのアンケートやAqueduct やWater Risk Filterなどのグローバルツール、損保系のリスク調査ツール、自治体が発表しているハザードマップを通してリスク評価を行い、高い節水目標の設定など具体の活動につなげています。
このようにバリューチェーン上のリスク評価に対する長年の知見が蓄積できていたことで、2017年にTCFDの最終提言が発表された後、すぐにシナリオ分析を開始。2018年6月末にいち早く「キリングループ環境報告書2018」でTCFD提言に沿った開示を行うことができました。このような知見を広げ、かつ、我々も学ぶために、TCFDがスタンダードとなり広く活用されることが社会とビジネスに必要と考えて賛同しました。
※TCFD:国際金融の監視などを行う金融安定理事会が設立した気候関連財務情報開示タスクフォースで、2017 年に気候変動のリスクと機会に関する情報開示を企業に推奨することを提言。
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