夏山シーズンや連休中は山小屋も混雑(写真:写真AC)

(本記事は、コロナ禍以前の山小屋の様子を描いたものです)

■夏山で体験した「!」な現実

ハルトが初めて北アルプスに登ったのは、山歩きを初めて約1年後のことです。

家族や友人から「ひとりで北アルプスに行くの? 危なくないか?」と心配されたのですが、しかし山に限らず、とてもエキサイティングで面白いと実感できるような体験をすると、そのままのめり込みたくなるのが人情というもの。彼の場合も奥多摩で山歩きの楽しさに目覚め、奥秩父、八ヶ岳へと回を重ねるたびにより高い山を目指してステップアップしてきたのです。

初めての北アルプスでは、名だたる名峰が波打つ大パノラマを望む燕岳の山小屋に泊まりました。天候にもめぐまれ、ぜひこの目で見たいと切望していたあこがれの槍ヶ岳を飽くことなく眺められたことは、これはこれで思い出深いすばらしい登山だったのですが、一つだけ心の隅にトラウマのようにくすぶっていることがあります。それは「山小屋の混雑」のことです。

折しも夏山シーズンの真っ只中に登山を決行したこともあり、ある程度の混雑は覚悟してはいたのですが、その混雑ぶりがハンパではなかったのです。

テントを持参してプライバシーを確保する手もあるが(写真:写真AC)

混雑を避けるなら、夏山シーズンや週末、連休期間中は山に行かなければよいわけですが、まさにこうした人の集中する時期にしか山に行けないのがサラリーマンの宿命でもあります。あるいはテントを持参して完全なプライバシー空間を確保するという手もありますが、まだ彼にはテントを背負っていくだけの体力がついていません。
 

■混雑を避けるか受け入れるか

そこで彼は、次の山小屋泊まり山行に備えて2つのアプローチでこの問題に取り組むことにしました。一つは「夏でも混雑しない山やルート」を探してみる、もう一つは「山小屋でストレスを感じずに過ごす方法」を考えることです。

まず「夏でも混雑しない山やルート」について。

夏山だからといって、すべての山小屋が混雑するわけではないだろう。混むのはいわゆる“有名ブランド”の地域に限られるのではないか。槍とか穂高とか、僕が泊まった山小屋も人気エリアの一つだったし。逆に有名ブランドばかりこだわったりせずに、こんな時だからこそマイナーな山を楽しもうと考えるのも一つの手かもしれない。

このように考えた彼は、知名度の高い山や人気のコースから少し外れた場所にある山小屋をネットで調べてみました。すると、思いのほか宿泊料金も割安で、利用した登山者の口コミからも、静かに過ごすことができてまんざらでもないことが分かったのです。

次に「山小屋でストレスを感じずに過ごす方法」についてです。これは前者と異なり、混雑を受け入れることを前提に考えなければなりませんが、まずは彼が体験した混雑の現実を見据えておく必要があります。

予約の有無にかかわらず宿泊する人が多ければ否応なく混雑(写真:写真AC)

彼はあらかじめ山小屋に予約の電話を入れ、しっかりと自分の居場所を確保したつもりだったのですが、実際に玄関を上がると想定外の大賑わい。大所帯の登山ツアー一行や、予定を変更して予約なしで泊まることになった登山者も少なくありませんでした。結局、前もって予約してもしなくても、宿泊する人が多ければ否応なくすし詰め状態で一夜を過ごすことになるわけです。