(イメージ:写真AC)

今回のコラムは筆者が新卒時(約30年前)に初めて勤務したA保育園の事故事例を使ってお話したいと思います。A保育園は行政からたびたび改善指導が入り、現在は閉園しています。

安全のほころび

A保育園では普段からケガや事故が絶えませんでした。ハード面では、木の靴箱が歪んでいてグラグラと動いていました。大人だけの使用なら不安定な靴箱も大きく動くことは稀なのですが、子どもたちは活発に走り回り激突したり、揺らして遊んだりします。また、木製の家具は木のささくれが目立ち、小さな子どもの手に触れると棘が刺さり、大変危険でした。

園庭には、滑り台や鉄棒、上り棒、ジャングルジム、ブランコがあり、ダイナミックに遊べる環境がある一方、整備不良の遊具で繰り返し園児がケガをしていました。また、園児の園外脱走がたびたびあり、園児が自分で戻ってくるか、近所の大人が気づいて、園まで送りに来ることがたびたびありました。

国が定める保育士配置基準の数しか保育士が勤務していないため、(2022.3.30筆者コラム参照)保育士がトイレや雑務で保育の場を離れたりするたびに、保育士の配置が基準以下になり、そのような時に限って、園児にケガが多発していました。

災害と日ごろの安全とのつながり

①靴箱がグラグラと動いてしまう点

A保育園の防災訓練では、教室内にいる園児は防災頭巾を被り、園庭に飛び出します。園庭にいる園児は一旦教室に入り、防災頭巾を被ってから園庭に飛び出す、といった指導をしていました。教室と園庭間は、靴箱の前を通るので、もし大きな地震が発生したら、靴箱の下敷きになることも考えられます。

靴箱に限らず、園舎内にある家具の整備や固定は「日常の保育の安全」・「災害時の安全」両方の観点から重要です。本棚の転倒や移動、収納物の散乱、照明器具や窓ガラスの落下・飛散、ピアノやオルガンの転倒・移動など、日ごろから危険箇所を点検する必要があります。

②整備不良の遊具

固定遊具も整備を怠るとケガや事故につながります。鉄棒やジャングルジムなどの固定遊具は地震での崩落や倒壊による危険性も考えられます。この園では防災訓練時、園庭に集合するように指導しているので、園庭にあるすべての遊具の耐震整備が必要です。遊具だけでなく、園を囲むブロック塀の強度、倉庫の倒壊・崩落の危険性、忘れがちですがエアコンの室外機など、園庭には危険がいっぱいです。

③園児が園を脱走

絶対にあってはいけないことですが、目の届かない状況で、園児の脱走は起こるべくして起こったといっても過言ではないと思います。この園の周辺は土砂災害警戒区域でした。もし園児が保育園を脱走中に大地震や豪雨による崩落が発生したらと、最悪の想像が頭に浮かびます。最近では、広島市で園児が保育中に脱走して、川で死亡していたというなんとも痛ましい事故がありました。

保育士の人数が実情の保育現場にそぐわない少なさであるということは、マスコミでもたびたび取り上げられ、深刻な状況です。保育士の配置基準に関しては、政治が絡むため保育園の努力だけでは解決できない難しい問題です。子どもの安全保障が日本よりも格段に手厚いイギリスでは、1人の保育士に対して3・4歳児は8人ですが、日本では1人の保育士に対して3歳児は20人、4歳児は30人が基準になります。日ごろの安全と災害時の子どもの命を守るためにも、国は保育士の配置基準を早急に見直し、実情に合った基準に刷新するべきだと強く訴えます。