山登りの計画を立てても、思いどおりにはなかなかいかない(写真:写真AC)

■思い通りにいかないのが世の常

「そうだ、今度あの山に登ろう」と思い立つ。何十年も山歩きをしてきたベテランであれば、年季の入ったザックを押入れから引っ張り出し、ひょいと背負ってそのまま鼻歌でも歌いながら出かけることでしょう。

しかし登山経験の浅いハルトの場合、山に登るためには事前の儀式が待っています。目標とする山を決め、どのコースをとるのかを決め、いつ行くのか、日帰りか山小屋泊まりかを決め、どんな装備でどのくらいの食料を持っていくのかを決め、具体的なスケジュールに落とし込む。これで机上プランはOK、あとは装備を整えて登山計画を提出するだけ、といきたいところですが、その後が思い通りにいかないこともあります。

登る山、コース、日時、中継点、装備、いろいろ計画を立てスケジュールに落とし込んでみるが(写真:写真AC)

たとえば、最後の総仕上げである登山計画を書いている最中に「ちょっと待てよ、これで本当に大丈夫か…?」と思考が止まってしまい、ぐずぐずしているうちに山に行きそびれる。いざ山へ行けば行ったで、意外と山のレベルに自分の経験やスキルがともなっておらず、さんざんな目に遭ったりする。コースや時間配分のムリがたたって山小屋への到着が遅れたり、帰りのバスに乗り遅れまいと転げ落ちるように山道を駆け下ったり…。

これまでの勝率(ハルト的には登山を決行し、満足できた割合のこと)は5割程度。「これでは日本百名山を踏破するのに、いったいどれだけの洗礼が待ち受けているか分かりゃしない…」。彼はため息をつきました。

■SMARTの要素―「S」と「M」と「A」

計画倒れに終わらないための枠組み「SMART」とは(写真:写真AC)

目標に向かってあれこれ計画してみるが、なかなか実現できない。計画倒れや不満足な結果に終わらないための工夫はないものかと、ハルトはあれこれ考えてみました。そしてふと思い出したのは、職場研修で耳にしたことのある「SMART」という目標設定の枠組みです。

SMARTとは5つの要素の頭文字から成る言葉ですが、彼はこれを登山のプランニングに当てはめられないか、その中身を少し詳しく調べてみることにしました。以下はその結果分かったことです。

まずはSMARTの前半部分、「S」と「M」と「A」について。S(=Specific)は「具体的である」「何を目指し、いつまでにどのように実行するのか明確になっている」という意味です。この点があいまいだと、動機やモチベーションが薄まってしまいます。

次のM(=Measurable)は「測れる」という意味です。いくら一生懸命がんばっても、そのために費やした時間やお金、どこまで進展があったかが分からないと困ります。これらを定量的、定性的に見える化するのがねらいです。

そしてA(=Achievable)は「現実的に達成できる」、つまり絵に描いた餅では困りますよという意味です。ただし、今の自分の能力やスキルを生かして取り組んでみて、手ごたえが得られるレベルでなくてはなりません。高すぎる目標はやる気をなくすだけだし、低すぎる目標は手ごたえが乏しくて、結局あとで後悔する羽目になるでしょう。