2018/06/01
事例から学ぶ

2015年と2016年、大規模な停電がウクライナで起こった。原因はサイバー攻撃とみられている。東京オリンピック・パラリンピックを2020年に控えた日本でも重要インフラや工場といった産業制御向けのサイバー攻撃が懸念される。全社的な取り組みを行う中部電力を取材した。
安定供給は絶対守るべき使命
「サイバー攻撃から守るべきもの、それはお客さま情報と電力の安定供給のふたつ」と語るのは中部電力ITシステムセンター総括グループ主任の長谷川弘幸氏。お客さま情報はいわゆる顧客情報漏えいなどで、旧来から日本でも警戒されている。産業系についてはこれまでは外部のネットワークにつながっていないことが多く、サイバー攻撃のリスクは低かった。しかしOSの汎用化に加え、IoTの拡大、さらには外部メンテナンスの機会もあることから、危険性は増大。長谷川氏は2015年には約140万人が影響を受けたというウクライナの停電について、詳しい情報は明らかになっていないとしつつも、「サイバー攻撃が原因とされる停電の発生には大きな衝撃を受けた。電力会社には電力の安定供給という絶対的な使命があるため、サイバー攻撃に対するリスクの洗い出しの強化が必要だと感じた」と振り返った。
同社では対策の考え方として人・組織・技術の3つの対策が必要と考えている。長谷川氏は「特に大事なのは人」と説明。社内の人員を経営層、一般、セキュリティ担当の3つの階層に分け、教育・訓練を実施している。
経営層は意思決定を行うため、それに役立つプロセス確認など必要な情報が何かを提示。最終責任を負った決定に役立つ情報をあげ、判断をしてもらう。一般の従業員は異常が何かを知り、それを知った際にすみやかにセキュリティ担当者に連絡する必要がある。近年増加している標的型攻撃などの疑似訓練を年に1~2回実施。異常時に連絡することの重要さなどを教え込んでいる。
そしてセキュリティ担当者は経営層と一般従業員やセキュリティの現場との橋渡しを行う。主に一般従業員やセキュリティ事象の発生箇所から異常の情報を聞き対処を行い、経営層に情報を上げる。「幸いなことに当社は社長が『サイバー攻撃の脅威は重大な経営リスクであり、自然災害等、これまで注視してきたリスクと同列に位置付けるもの』という考えを持っており、『電気事業は家庭生活や企業の経済活動を支えているため、電力供給に係るセキュリティを確保することは社会を守ることにもつながる』と意識している。そのため、サイバーセキュリティの施策を積極的に打ちやすい状況にある。風通しはいい」と長谷川氏は語る。
- keyword
- 中部電力
- サイバーセキュリティ
- サイバー攻撃
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
DXを加速するには正しいブレーキが必要だ
2月1日~3月18日は「サイバーセキュリティ月間」。ここでは、企業に押し寄せているデジタルトランスフォーメーション(DX)の波から、セキュリティーのトレンドを考えます。DX 時代のセキュリティーには何が求められるのか、組織はどう対応していくべきか。マクニカ ネットワークスカンパニー バイスプレジデントの星野喬氏に聞きました。
2025/03/09
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/03/05
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/03/04
-
-
-
トヨタが変えた避難所の物資物流ラストワンマイルはこうして解消した!
能登半島地震では、発災直後から国のプッシュ型による物資支援が開始された。しかし、物資が届いても、その仕分け作業や避難所への発送作業で混乱が生じ、被災者に物資が届くまで時間を要した自治体もある。いわゆる「ラストワンマイル問題」である。こうした中、最大震度7を記録した志賀町では、トヨタ自動車の支援により、避難所への物資支援体制が一気に改善された。トヨタ自動車から現場に投入された人材はわずか5人。日頃から工場などで行っている生産活動の効率化の仕組みを取り入れたことで、物資で溢れかえっていた配送拠点が一変した。
2025/02/22
-
-
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP
神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立した対応ができるように努めている。
2025/02/20
-
能登半島地震の対応を振り返る~機能したことは何か、課題はどこにあったのか?~
地震で崩落した山の斜面(2024年1月 穴水町)能登半島地震の発生から1年、被災した自治体では、一連の災害対応の検証作業が始まっている。石川県で災害対応の中核を担った飯田重則危機管理監に、改めて発災当初の判断や組織運営の実態を振り返ってもらった。
2025/02/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方