人間の脳のはたらきはマルチハザードBCPを考える上で示唆に富む(写真:写真AC)

■脳のはたらきと企業のレジリエンス

神経科学者のデビット・イーグルマンは、著書の『Livewired』の中で次のような意味合いのことを述べています。

「脳というのは、目や鼻や耳、手や足などを制御する役割が、生まれた時から部位ごとに整然と決まっているわけではない。問題を解決するために絶えず回路を繋ぎ変え続けているダイナミックなシステムなのである。視力や聴力、あるいは手足を失った人が、通常の人には考えられないような能力や器用さを発揮して生きていけるのはそのためなのだ」

イーグルマンの考え方は、マルチハザードBCPのあり方を考える上でも非常に示唆に富むものです。ハザードやリスクの種類が増えれば増えるほど、何か新しい、画期的な対策を導入しなくてはという観念にとらわれ、中身が複雑になり、対策が煮詰まってしまうことが少なくありません。

資源を最大に生かすには(写真:写真AC)

企業が確保できる経営資源は無限ではありません。むやみに外の世界に斬新な解決策を求めるよりも、慣れ親しんだ有限な資源を組み合わせて最大限生かす努力をするのが先決です。BCPこそが「問題を解決するために絶えず回路を繋ぎ変え続けているダイナミックなシステム」でなくてはなりません。

本連載では、その方法の一つとして既存の社内体制(業務慣習や業務プロセス)を見直す変化球型の対策を提案しました。この変化球型の考え方は「リスク低減対策」の文脈で説明したものでしたが、「事業継続戦略」にも有効であることは言うまでもありません。つまり「非常時に特化した戦略」(同業者の設備を借りて生産を続ける等)は最終手段とし、自助努力でできることはなるべく「平時の経営課題」として取り組むということです。