2018/05/14
ニュープロダクツ

日本オラクルは、大災害時に被災地で自治体と被災住民との間でインターネット上で簡単に使える情報共有プラットフォームを開発。このほど4月22日茨城県つくば市の防災科学研究所の一般公開イベント「ぼうさいミュージアム」で、運営システムとして試作版の運用に成功した。現場のニーズに合わせて迅速にソフト開発ができるアジャイル方式を採用。これまで困難だった被災者側からのニーズ把握や、膨大なデータをもとにした災害検証にも役立てることを目指す。
当日は1000人以上の来場者が会場入口に掲示されたQRコードをスマートフォンなどで読み込み、ブラウザ上の専用URLにアクセスしてイベント案内サービスを体験した。従来の紙媒体のように会場地図、開催イベント一覧などがみられるほか、Webサービスのリアルタイム性や双方向性を活かして、希望するイベントの参加予約管理、会場までの経路案内、駐車場の混雑状況のお知らせ、食堂のメニュー案内、アンケート回収などの機能を備える。当日の来場者アンケートでは8割以上が「役に立った」と好評を得た。
本領発揮するのは災害時
「このシステムが本領を発揮する災害時」と話すのは、クラウド・テクノロジー事業統括・公共営業本部シニアマネージャーの渡辺修治氏。このシステムは、本来イベント運営のためのものではなく、災害対応を目的にしている。内閣府が推進する「戦略的イノベーションプログラム(SIP)」の一環で、同社はクラウド基盤を活用した新しい被災地の情報プラットフォームの構築を提案。昨年9月に採択を受け、2年間をかけて社会実装可能なシステム構築を進めている。今回はそのプラットフォームで自治体と被災者の情報共有を行うサービスシステムの試作版にあたる。
今回イベントでのテスト運用も、災害時に被災自治体が避難所運営のための利用を意識している。例えば、駐車場の混雑状況は避難所の混雑状況に、会場内の経路案内は避難場所までの経路案内に、イベントアンケート回収は不足する支援物資に。被災地でもすぐに自治体が活用できる仕組みを一通り備える。さらに今後は「このサービス利用履歴を通しで被災者がどんな行動を取り、どんなものを欲しているかを膨大なデータが蓄積できれば、データを基にしたより効率的な避難経路案内や支援物資供給が実現できるはず」(渡辺さん)とビックデータを活用した事前策の高度化を見据える。
アジャイル型開発を採用
また今回アジャイル型開発を採用しているため、各災害の特性や地域差によって変化する被災地のニーズを柔軟に取り入れ、ウェブサービスにその場で新機能を追加することもできる。従来型のウォーターフォール型開発方式では、利用者の要望に合わせてまず設計仕様書をすべて確定させてから、一斉に開発作業を行うのに対し、「アジャイル型」は利用者と開発者がひとつの画面をみながら双方向でやりとりしながら完成する。開発時間が短く、刻々と変化する利用者のニーズにも柔軟に対応できる。
開発を手掛けたのは、クラウド・テクノロジー事業統括クラウド・プラットソリューション本部の植田充彦氏。試作版ということで植田氏が通常業務の合間に、社内の詳しいエンジニアにアイデアを貰ったり、ソースコードを借りたりしながら3〜4週間程度で完成したという。その間、試作版を防災科研の職員にもみてもらい使い心地を確かめてもらった。実際に「◯◯できないか」と要望に応じて追加した機能も少なくないという。今回は個人情報をもらわないという条件で開発したが「もしメールアドレスなどを登録できれば、スケジュールの通知などもっと便利な機能を付け加えることもできる」(植田氏)。
現段階では「我々はあくまでデータベース会社」という同社。現在システム販売の予定はなく、関心のあるソフトウェア開発会社と連携した商品化をめざす。渡辺さんは「平時は観光イベント運営を使いこなしながら、災害時もそのまま転用できるソフトが理想。危機管理担当者を持たない小さな自治体でも使えるものができれば」と話している。

(了)
防災・危機管理関連の新製品ニュースリリースは以下のメールアドレスにお送りください。risk-t@shinkenpress.co.jp
リスク対策.com:峰田 慎二
ニュープロダクツの他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方