2016/03/24
誌面情報 vol54
大手カレーチェーン店における食品廃棄物転用事件を受け、本誌では、国内大手小売・外食事業者に対しアンケートによる緊急調査を実施。小売事業者4 社、外食事業者4 社から回答を得た。母数が少ないため集計結果を公表するまでには至らなかったが、回答内容には数多くの重要なファクトや示唆が盛り込まれていた。アンケート調査に協力していただいた企業には改めて感謝したい。
【実施期間】 2016年1月28日~ 2月17日
【対象】 国内の百貨店、GMS、食品スーパー、コンビニエンスストア、ファーストフード、ファミリーレストランの各業種における主要企業を編集部で選定(約40社)
【調査方式】 メールによる質問表送付
1)フードディフェンスへの取組み状況
何らかの基準を設けていると回答したのは小売1社、外食4社。「店舗納品食材・包材等の配送車の施錠管理、納品時の検品、ドアや敷地の施錠管理などを実施」(外食A)、「自社策定のガイドラインを運用」(外食B)などの回答が寄せられた。グローバルスタンダードを活用しているのが外食C。「AIB国際検査統合基準を元に作成した自社管理基準により、各工場での自主監査、工場間の相互監査を実施」と回答した。このAIB国際検査統合基準とは、アメリカ製パン研究所(American Institute of Baking)が作成したもので、信頼にたる食品安全の規格として世界的に活用されているもの。また、外食Dも、「自社のグローバル基準の中でフードディフェンスに関する基準があり、内部監査、外部監査を通じて点検を行っている」と回答した。
小売では、基準は設けていないものの、「意図的な危険物混入の防止のため対面販売ではない売り場に防犯カメラを設置」(小売E)、「店舗に食品衛生担当を配置」(小売F)などと回答。基準作成済みの小売Gでは食品防御対策ガイドライン(食品製造工場向け)をもとに2015年に自社の社内ルールを文書化したとしている。このガイドラインの最新版は、2013年の厚生労働科学研究で開発されたもので、日本国内では標準的なものの1つだ。
2)取引先監査の手法
取引先監査ではフードディフェンスを考慮していないとした小売H以外は、何らかの形でフードディフェンスの仕組みを考慮している。ルールや管理基準の策定、配送車や貯水槽の施錠管理、敷地内外のカメラによる監視、洗剤や消毒液などの薬剤管理、従業員の管理などを確認することは、今回回答を寄せた企業では標準的な内容となっているようだ。
3)食品事故に関する危機管理計画
今回は、選択肢として危機管理組織の設置、製品回収プログラムの確立、連絡先リストの作成、役割と責任の明確化、訓練実施の5つを用意し、策定した計画の内容を確認した。全てを実施していると回答したのは外食AとD。外食B、C、小売E、Gは訓練以外はすべて実施していると回
答した。小売F、Hは危機管理組織の設置のほか、一部の項目のみ実施していると回答した。
4)今回の事件を受けた新たな対策
新たな対策の予定はないと回答したのは外食A、D、小売E。Aは「在庫調整しながら販売しているため、そもそも廃棄がほぼ発生しない」と回答。Dは「既存のマニフェスト制度の運用を再点検」とした。一方Eは「食品廃棄は原則パッカー車による巻き込み運搬を行っている」と再利用リスクが低い廃棄手法を使っているとした。小売業であれば店舗からの廃棄品の量には一定の限度があるが、今回の事件は外食業のセントラルキッチン内での製造工程における事故をきっかけとした大量廃棄。その量はビーフカツ約4万枚、5トン超であり、パッカー車1台での回収は不可能といった事情はある。とはいえ、今回の事件での報道の大きさを考慮すれば、巻き込み運搬も検討の余地はある。
外食B、Cは、廃棄物処理のフローを新設するとした。また、小売F、G社、処理状況のヒアリングや取引業者に確認書提出を依頼する等の対策を進めている。
誌面情報 vol54の他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方