2018/04/02
激変の時代!海外リスクに備える

海外企業をM&Aしたものの、その後のマネジメントに失敗し、大きな損失計上を出すケースが近年目立っている。海外子会社のリスクマネジメントにおける日本企業の問題点、海外子会社のリスクをカバーする保険について、スイスに本社があるチューリッヒ保険会社・企業保険事業本部の大谷和久本部長に話を聞いた。
高まる海外子会社のリスク管理の重要性
「日本企業の多くは本社が海外子会社を管理できていない。リスク管理を海外子会社に任せているケースが多く、リスク分析が不足している」と大谷氏は指摘。リスクが顕在化する前に適切に管理することが重要だが、「大企業は気づいていても対処方法がわからない。中堅企業はそもそもリスクについて知らないケースが多い」と分析。さらに「日本では性善説に立ったマネジメントを行うケースが多いが、この手法は海外ではうまくいかないことが多い。リスクヘッジには違うアプローチが必要」としている。例えば欧米企業ではCrime保険(犯罪被害補償保険)の加入は当たり前だが、日本企業には普及していない。海外子会社で犯罪被害が起これば、親会社のガバナンスに問題があると思われるのも必然。対策は必須だ。
製造業もサイバー攻撃の対象に
最近の海外子会社におけるリスクについてはマネジメント面以外でも、「サイバー関連の被害が目立つ」と大谷氏。電子メールを用いたハッキングのほか、工場のIT化が進むことで、産業系システムを狙ったサイバー攻撃も発生。工場が攻撃を受けてしまうと、生産ラインが止まり、大きな損失につながる可能性もある。「日本ではサイバー攻撃での被害というと真っ先に個人情報の流出といった情報面の被害が浮かぶが、産業系システムの攻撃に関しては完全に経済的な損害。注意すべき傾向だ」と大谷氏は説明する。
保険でリスク管理の一元化
海外子会社で起きるリスク対策として、チューリッヒでは保険プログラム「インターナショナル・プログラム(国際保険プログラム)」を提供する。この保険の大きな特徴は2つ。日本でワンストップ加入できる点と各国の規制に対応している点だ。国によってはその国の規制により、日本からの保険手配が認められない国や、日本からの保険支払いが認められない国がある。また日本ではかからないが保険料に課税される国や、現地の保険会社しか損害調査を行えない国もある。そのため、各国の諸規制に対応する保険プログラムを構築することが必要だ。「海外子会社で生じた損害を包括的にカバーするタイプの保険は、欧米の大企業はほぼ100%入っているが、日本ではまだあまり普及していない」と大谷氏は指摘する。

「これからは日本企業もインターナショナル・プログラムに入り、海外子会社のリスクマネジメントを一元化することが大変重要だ」と大谷氏は語る。チューリッヒは、約180カ国でどのような規制があるかを即座に把握できるシステムを自社開発しており、海外進出する日本企業への対応に自信をみせる。
チューリッヒでは簡易版の「インターナショナル・プログラム」として、アジアに進出している中堅製造業を対象とした、生産物賠償責任(PL)保険「まるごとアジアZ」も販売。「アジアに製造拠点を持つ中堅企業は増加しており、製造したものが第三国に輸出されるとリスクは大きくなり事態は複雑化する。日本で加入している海外PL保険では補償されないケースが多々ある」と大谷氏は説明。「まるごとアジアZ」では、子会社所在国をアジア地域に限定することで、より簡単でスピーディーな加入手続きを可能にしている。もちろん簡易版であっても各国の諸規制にきちんと対応しており、「インターナショナル・プログラム」を初めて検討する中堅企業に最適といえよう。
(了)
リスク対策.com:斯波 祐介
激変の時代!海外リスクに備えるの他の記事
- 海外進出の中小企業に緊急時支援
- 海外子会社のリスクを把握し対策の手立てを
- 90カ国で安心のセキュリティ・医療を提供
- トランプ政権に世界経済ほんろう
- EU個人データ保護法対応ソフト
おすすめ記事
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
-
新任担当者でもすぐに対応できる「アクション・カード」の作り方
4月は人事異動が多く、新たにBCPや防災を担当する人が増える時期である。いざというときの初動を、新任担当者であっても、少しでも早く、そして正確に進められるようにするために、有効なツールとして注目されているのが「アクション・カード」だ。アクション・カードは、災害や緊急事態が発生した際に「誰が・何を・どの順番で行うか」を一覧化した小さなカード形式のツールで、近年では医療機関や行政、企業など幅広い組織で採用されている。
2025/04/12
-
-
-
防災教育を劇的に変える5つのポイント教え方には法則がある!
緊急時に的確な判断と行動を可能にするため、不可欠なのが教育と研修だ。リスクマネジメントやBCMに関連する基本的な知識やスキル習得のために、一般的な授業形式からグループ討議、シミュレーション訓練など多種多様な方法が導入されている。しかし、本当に効果的な「学び」はどのように組み立てるべきなのか。教育工学を専門とする東北学院大学教授の稲垣忠氏に聞いた。
2025/04/10
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方