大谷氏は日本企業の海外子会社管理の問題点を指摘した

海外企業をM&Aしたものの、その後のマネジメントに失敗し、大きな損失計上を出すケースが近年目立っている。海外子会社のリスクマネジメントにおける日本企業の問題点、海外子会社のリスクをカバーする保険について、スイスに本社があるチューリッヒ保険会社・企業保険事業本部の大谷和久本部長に話を聞いた。

高まる海外子会社のリスク管理の重要性

「日本企業の多くは本社が海外子会社を管理できていない。リスク管理を海外子会社に任せているケースが多く、リスク分析が不足している」と大谷氏は指摘。リスクが顕在化する前に適切に管理することが重要だが、「大企業は気づいていても対処方法がわからない。中堅企業はそもそもリスクについて知らないケースが多い」と分析。さらに「日本では性善説に立ったマネジメントを行うケースが多いが、この手法は海外ではうまくいかないことが多い。リスクヘッジには違うアプローチが必要」としている。例えば欧米企業ではCrime保険(犯罪被害補償保険)の加入は当たり前だが、日本企業には普及していない。海外子会社で犯罪被害が起これば、親会社のガバナンスに問題があると思われるのも必然。対策は必須だ。

製造業もサイバー攻撃の対象に

最近の海外子会社におけるリスクについてはマネジメント面以外でも、「サイバー関連の被害が目立つ」と大谷氏。電子メールを用いたハッキングのほか、工場のIT化が進むことで、産業系システムを狙ったサイバー攻撃も発生。工場が攻撃を受けてしまうと、生産ラインが止まり、大きな損失につながる可能性もある。「日本ではサイバー攻撃での被害というと真っ先に個人情報の流出といった情報面の被害が浮かぶが、産業系システムの攻撃に関しては完全に経済的な損害。注意すべき傾向だ」と大谷氏は説明する。

保険でリスク管理の一元化

海外子会社で起きるリスク対策として、チューリッヒでは保険プログラム「インターナショナル・プログラム(国際保険プログラム)」を提供する。この保険の大きな特徴は2つ。日本でワンストップ加入できる点と各国の規制に対応している点だ。国によってはその国の規制により、日本からの保険手配が認められない国や、日本からの保険支払いが認められない国がある。また日本ではかからないが保険料に課税される国や、現地の保険会社しか損害調査を行えない国もある。そのため、各国の諸規制に対応する保険プログラムを構築することが必要だ。「海外子会社で生じた損害を包括的にカバーするタイプの保険は、欧米の大企業はほぼ100%入っているが、日本ではまだあまり普及していない」と大谷氏は指摘する。

写真を拡大 海外の保険規制の例。様々なケースへの対応が必要となる

「これからは日本企業もインターナショナル・プログラムに入り、海外子会社のリスクマネジメントを一元化することが大変重要だ」と大谷氏は語る。チューリッヒは、約180カ国でどのような規制があるかを即座に把握できるシステムを自社開発しており、海外進出する日本企業への対応に自信をみせる。

チューリッヒでは簡易版の「インターナショナル・プログラム」として、アジアに進出している中堅製造業を対象とした、生産物賠償責任(PL)保険「まるごとアジアZ」も販売。「アジアに製造拠点を持つ中堅企業は増加しており、製造したものが第三国に輸出されるとリスクは大きくなり事態は複雑化する。日本で加入している海外PL保険では補償されないケースが多々ある」と大谷氏は説明。「まるごとアジアZ」では、子会社所在国をアジア地域に限定することで、より簡単でスピーディーな加入手続きを可能にしている。もちろん簡易版であっても各国の諸規制にきちんと対応しており、「インターナショナル・プログラム」を初めて検討する中堅企業に最適といえよう。

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介