2018/03/29
激変の時代!海外リスクに備える
有限責任監査法人トーマツは28日、「グローバルビジネスリスク記者勉強会」を開催。デロイト トーマツ 企業リスク研究所主席研究員の茂木寿氏が、米国による鉄鋼・アルミ輸入制限、中国文書共有サイトへの機密情報流出、現地当局の調査協力遅延に対する制裁金、中国国営TVによる外資企業名指し批判について解説した。
■米国による鉄鋼・アルミ輸入制限
米国のドナルド・トランプ大統領が1日、鉄鋼とアルミニウムの輸入増が安全保障上の脅威になっているとして、鉄鋼に25%、アルミ二ウムに10%の追加関税を課し輸入制限を発動する方針を表明。28日現在までにEU加盟国、韓国、カナダ、メキシコ、豪州、ブラジル、アルゼンチンの7カ国を除外しているが、中国・日本は除外対象になっていない。日本の鉄鋼・アルミの輸出先として米国はそれぞれ4位と最重要相手国ではないものの、原料高による収益悪化への懸念により日系の大手自動車メーカーの株価が下落した。また鉄鋼関連業種にとっても米国輸出のコスト増になるほか、米国市場から締め出された中国の鉄鋼製品が、日本の輸出先の大半を占めるアジア市場に流れ込み、値崩れが発生する可能性もあるという。茂木氏は「米国は今年秋の中間選挙を控えており、今後もトランプ政権が票獲得のために恣意的な政権運営を続ける可能性がある」と注意を促した。
■中国文書共有サイトに機密情報流出
中国最大手の検索エンジン「百度(バイドゥ)」の文書共有サイトで2017年6月から今年2月までに、200社近くの日本企業の内部文書が掲載されていることが発覚した。文書は製品の設計図、社内研修で使われた製品機能の説明資料、飲食店チェーンの接客マニュアルなど。文書はダウンロードされる回数に応じて投稿者にネット通販に使えるポイントが獲得できる仕組みで、日系企業現地の子会社の従業員が小遣い目的で投稿するケースが多いという。
茂木氏は「中国では転職市場が活況で、退職時にデータを持ち出すのは普通のこと。その中に顧客データなど機密情報も含まれることは少なくない」と現状を説明。「関連サイトは常に監視して、問題があるデータが見つかれば即座に削除要請する」と対策を促したほか、「現地従業員を雇用する際に秘密保持契約の締結や、契約違反時の損害賠償請求する旨を周知徹底するべき」とした。日本貿易振興機構(JETRO)ではこの問題について日本企業向けに対策マニュアルを公開しているという。
https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/ip/basic/pamphlet/pdf/baidu.pdf
■現地司法当局の調査協力遅延に対する制裁金
豪州の4大銀行で相次いだ保険金不払い等の不祥事を調査するため、2017年11月に王立委員会が設置され、不正に関する資料提出を求められていたが、そのうち2行が期限までに提出しなかった事例があった。銀行側は「確認対象の情報量が膨大であったため」としているが、今後遅れが長引けば制裁金を科される可能性もある。茂木氏は「当局調査に協力的でない企業に対する制裁はどの国でもあるが、特に米国は当局がメディアで企業名を公表したり、遅延時間に応じて莫大な制裁金を科すなど、度合いが激しい」とした。
■中国国営TVによる外資企業名指し批判
中国国営中央テレビ(CCTV)が毎年3月15日の「世界消費者権利デー」にあわせて放送する特別番組「3・15晩会」。毎年中国市場で大きなシェアを持つ企業が名指しで批判される。中国企業だけでなく、ここ数年は外資系企業が名指し批判されており、過去には日本の自動車メーカーや電子機器メーカーも挙げられたことがある。茂木氏は「中国では真偽に関わらず国営メディアが発信する情報が大きな影響力を持つ。事実に基づかない批判であれば、自社サイトで声明を出すなど積極的に意思表示していくべき。対応が遅れて沈黙していれば批判を認めていると受け取られるリスクもある」と注意を促した。
(了)
リスク対策.com:峰田 慎二
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