2015/07/25
誌面情報 vol50
株式会社日立物流
株式会社日立物流はこのほど、首都直下地震や南海トラフ地震など大規模災害時でも主要業務が継続できるよう、トラックなど運搬車両の燃料を確実に調達するための「災害時燃料調達BCP」を策定した。災害時に同社所有のトラックや委託業者のトラックが3日間運行できる燃料を平時から燃料業者に備蓄してもらうとともに、災害時には専属のタンクローリーが同社の要請に応じて各備蓄拠点から燃料を必要とする営業所に向けて出動できる体制を整えた。
東日本大震災では、石油会社の被災などにより全国的にガソリンや軽油が不足し、物流に大きな影響が出た。
日立物流では、医薬品や食品など、災害時に必需品となる商品類も多く扱うことから、2012年末から本格的にBCPを策定し、2013年4月にはリスク対策部を立ち上げるなど、事業継続の確保に力を入れてきた。今回の災害時燃料調達BCPは日立グループ全体でも初の試みになるという。
BCPの具体的なスキームは、各営業所が配送で消費する通常時の軽油数量に対して、災害時における営業所の操業度を50%と設定し、災害時3日分の必要量を算出。ここから、自家給油所(インタンク)の備蓄数量を差し引いて、災害時に新たに調達が必要となる軽油数量を計算し、それを燃料会社に平時から備蓄しておいてもらうというもの。対象車両は、同社グループの自家所有トラックだけでなく、運送を委託している外注協力会社のトラックも加え大型トラック約1800台になる。
一方、燃料業者は、主幹事会社が関東地区の3県(埼玉県、千葉県、神奈川県)、中部地区(愛知県)、関西地区(大阪府)に専用の貯蔵タンクを確保し、必要燃料を常時備蓄する。災害時には、日立物流からの要請に応じて、各営業拠点に必要量を即座に調達できるようにする。燃料業者の貯蔵タンク(営業拠点)がないエリアにおいては、地元の燃料業者との間で災害時燃料の貯蔵配送の相互協力・体制を構築し、こうした業者の貯蔵タンクなどを拠点として活用する。
専属タンクローリーも確保
災害時の流れは、まず日立物流の各エリアを管轄する営業本部が、本部配下にある各営業所からのトラック燃料の要請を取りまとめ、主幹事である燃料業者へ配送の依頼を行う。依頼を受けた燃料業者は、備蓄拠点に対して配送指示を出し、要請元である各営業拠点に向け専属のタンクローリーを出動させる。仮に日立物流の営業本部が被災して連絡が取れない場合には、一定時間が経過した段階で、要請の有無に関わらずタンクローリーが出動し、事前に決めておいた営業所に燃料を届ける。
東日本大震災では、タンクローリーの需要が高まり車両が手配できなかった業者が多かったことから、同社では、あらかじめタンクローリーとドライバーを専属で確保。車両は車番を特定し、各県に対し災害時緊急通行車両の事前届け出も行っているという。
このスキームを実現するための契約については、燃料業者の与信リスクを回避するため、同社の窓口である燃料商社との間で業務委託契約を締結し、商社と主幹事となる燃料業者が別途業務委託契約を締結する方式をとっている。
今回のBCPは、3日間という限られた期間における燃料調達を実現するものだが、同社では、災害発生直後から動けるようにすることで、病院向けの医療用医薬品の配送やスーパーマーケット向けの食料品などの配送、社会インフラを担う日立グループへの配送など、大規模災害時に優先させる社会機能維持人命に関わる緊急・配送用を見込んでいる。
毎月300万円のコスト
これらの対策にかかるコストとしては、燃料の備蓄・維持、専属配送車両やドライバーの事前確保などで月額約300万円、さらに災害時には軽油代金(供給量に応じて課金)や配送費(主にドライバーの人件費)が掛かるとしている。
同社安全管理本部リスク対策部長の沖山雅彦氏は「平時に生じるランニングコストについては、大規模災害が発生して初めてその効力が発揮されるという点から、事業継続、社会機能維持のための必要経費であり、大規模災害に備えた保険料という性格も持っていると考えています」と話す。
また、災害時にかかる軽油代金については、毎月頭に燃料商社から当月の軽油代金の見積書が提示される仕組みになっており、災害時に燃料が急騰したとしても、その月内で備蓄燃料の供給を受けた場合は、見積書記載の軽油単価が適用される。
毎月在庫証明書を提出
現在、同社が特に力を入れているのが実効性の確保だ。「毎月、数百万円というお金を支払っているわけですから、万が一の際でも機能しなかったとは社内に対し言えません」(沖山氏)。
まず、備蓄燃料を確実に把握するために、主幹事の燃料業者には、毎月、燃料商社を通して在庫証明書を提出させている。備蓄燃料の劣化対策としては「流通在庫備蓄」方式を採用。貯蔵タンク内の燃料のキープ&リフレッシュを図っている。さらに、災害用燃料を備蓄する拠点が、被災により、稼動不能となったときは、他のバックアップ拠点から燃料供給が行えるよう備蓄拠点間には定期的に連携体制を確認するようにしている。
専属となるタンクローリーは、車両側面にその旨のステッカーを貼付。当該車両のドライバーは正・副2人を登録し、バックアップ体制も確保する。日常的な教育により、災害時には専属配送ドライバーとなる認識を持たせているという。
このほか、災害時に相互に連絡を取り合う担当者を特定するとともに、燃料業者や各備蓄拠点の責任者、専属配送ドライバーなども含めた「緊急連絡体制表」を作成。人事異動などにより登録内容に変更が生じた際には、すみやかにその旨を連絡し、体制表の更新を行い、常に最新の状態に保つよう努めているとしている。
年2回の実地監査を実施
こうした活動が継続的に取り組まれていることを確認するため、同社と燃料商社では合同で、備蓄拠点に対する実地監査を毎年5月と11月の2回実施することにしている。災害時の通信機器の設置状況、非常用自家発電機の設置・稼動状況、災害用備蓄品の備蓄状況など、災害時の拠点として機能するかどうかも含め、監査をするという。
今後は、訓練も定期的に行っていく予定だ。「災害時通信訓練」を手始めに「タンクローリーによる模擬給油訓練」など、各種対応訓練を実施することにより、燃料業者との間の災害時対応力の向上を図る。
同社はこれまでもBCPの実効性を高める取り組みとして、社長以下、役員も参加する災害対策本部訓練の実施、災害時に使用する備品の整備、災害発生時の組織力の向上を目的とした運営マニュアルの整備、従業員個人の防災対応力の向上を目的とした「災害対応カード」の配布などの対策を積み上げてきた。また、東京本社のデータセンターが大規模災害等で使用困難になった場合は大阪のデータセンターでシステムが稼動できるよう、平時から東京から大阪にデータ転送をするなど、ハード・ソフト両面から事業継続の対策を強化してきた。
沖山氏は一連の事業継続体制の強化について「私自身、過去の知見もなかったので達成感はあります。お客様からBCPの取り組みを聞かれるケースも増えてきましたし、今後はお客様からの信頼も高まると思います」と話している。
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