2016/11/13
誌面情報 vol49
在日フランス商工会議所が首都直下地震を想定した「BCPマニュアル」を発行した。欧米では、「地震」「火災」「新型インフルエンザ」など、事象に応じてBCP(事業継続計画)を作るのではなく、「建物に入れない」「ITが使えない」「人が集まれない」など、結果的に経営資源が陥る状況「結果事象」を想定してBCPをつくるケースが多いと言われているが、日本での首都直下地震のリスクの大きさを考慮し、中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループが2013年12月にまとめた「首都直下地震の被害想定」を前提に、BCPの必要性や考え方、地震発生時や発生後の対応を簡略に示している。商工会議所の会員である中小企業でも理解しやすいよう、巻末には、企業・家庭別に、最低限、事前に備えるべきことをチェックリストにまとめている。
編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年5月25日号(Vol.49)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです(2016年11月13日)。
マニュアルは、Chapter1「会社のBCP」、Chapter2「地震発生時のための従業員の教育」、Chapter3「従業員の地震防災マニュアルとチェックリスト」、Chapter4「企業の地震防災チェックリスト」Chapter5、「支店や営業店の防災チェックリスト」、Chapter6海外の親会社の防災マ「ニュアル」6章で構成。このうちのChapter1では、BCPの被災想定として、地震の揺れで17万5000棟もの建物が全壊し、火災により41万2000棟の建物が焼失すること、さらに最悪で1万1000人が命を落とし、火災でも1万6000人が犠牲になる可能性があるなど、政府の発表した被災想定の概略を紹介。その上で、まず、すべての会社が従業員の安全を守り、危機に対する指揮調整とコミュニケーションを強化すること、ITバックアップと復旧の体制を整えることが大切と強調している。
地震発生時の行動については、地震発生時に何が起きるかと、対策として何が有効かを一覧表で掲載。強い揺れが発生している時には、倒壊物から身を守り頭を保護することぐらいしかできなため、有効な対策としては「あらかじめ家具は壁や床に固定しておく」「避難経路や避難場所を確保しておく」といった具合に、地震を経験したことがない外国人でも、対策の必要性と有効性が分かりやすく学べるように工夫している。特に、首都圏での帰宅困難者対策には手厚く説明しており、家族と速やかに安否確認が取り合える体制を整えておくことや、迅速に海外本社に連絡すること、会社が従業員の3日分程度の水や食料を備蓄しておく必要性などにも触れている。また、一度従業員が帰宅したら、交通機関が復旧するまで出社が難しくなることから、在宅での勤務についても整えた方がいいとの助言も加えている。
BCPの策定方法については、事業重要度分析(BIA)や、最大許容停止時間(MTPD)・目標復旧時間(RTO)の設定など、主要項目を中心に、概略と設定方法を簡略に紹介している。
Chapter2では、地震発生時における従業員の行動と教育方法について紹介。Chapter3以降で、従業員が事前に備えておくべきこと、会社として備えておくべきこと、BCPとしての対策などを具体的なチェックリストを用いて紹介している。連絡先や責任者の名前などは、会員が必要性に応じて自由に書き込めるようにしている。
マニュアルを策定した事業継続マネジメント委員会委員長のピエール・スヴェストル氏は「まだたたき台段階ではあるが、広く国内外の企業の意見を聞いた上でまとめたもので、会員企業以外にも役立つ内容になっていると思う」と話している。現在、同会議所の会員は約500社で、そのうち7割がフランス企業、3割がフランスと何らかの関連がある日本企業。
スヴェストル氏は、「このマニュアルを多くの企業と共有することで、さらに内容を充実させていきたい」としており、有志企業からのアイデア・意見交換を通してさらに実用に近いものに仕上げていく方針だ。
日産自動車での経験生かす
スヴェストル氏は40年近く日本と関わりがあり、BCPについての経験も豊か。2001年からは日産自動車に勤務し、内部監査およびリスク管理の責任者として従事。同社にて複数の地震対応に携わった。2007年の新潟中越沖地震で日本の自動車部品サプライヤーが生産機能の大部分を失ったことについてスヴェストル氏は「当時、自動車の関連会社は、自動車メーカーが関連会社の工場の再建のために自社の従業員を派遣するほど、大きな被害を受けた」と振り返る。2011年の東日本大震災についても「サプライヤーの被害が大きかったために、復興は遅れ、困難であった」と語っている。
同氏は現在、日本国内で独立したコンサルタントとして活動しているが、「大企業で継続計画を実施するのは非常に困難な作業」と指摘。理由として「経営陣がリスクを認知し、予測する必要性を感じているのにもかかわらず、ノウハウが足りない。ワーキンググループは優先順位を決められずにいる。さらに、大規模地震から時間が経つにつれ緊急性は薄れるといった問題点が挙げられる」としている。
(了)
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