将来は商店街BCPの策定目指す

下高井戸商店街の取り組み


飲食店や生鮮食品店、生花店などの専門店から総合スーパーまで約250店舗が軒を連ねる東京都世田谷区の下高井戸商店街。2014年11月20日から12月5日まで、この商店街を中心とした生活防災フェアが開催された。町内会や学区を中心とした防災活動は全国的に展開されているが、商店街を中心とした防災活動は珍しい。防災とは縁遠いと考えられる生鮮食品を非常食に活用するなど、下高井戸商店街のユニークな取り組みを取材した。

生活防災フェアは、防災と商店街の活性化を結びつける取り組み。まず、商店街が、各店と協働で生活防災推奨商品を選定。商品に「推奨品」のカードを貼ってもらい、消費者にPRする。消費者は期間中に防災推奨商品を購入すると、抽選補助券を獲得でき、補助券3枚と引き換えで賞品の抽選に応募することができる。賞品は友好都市の北海道中川町特産のジャムや羊羹などだ。「生活防災推奨商品」とはどのような商品なのだろうか。

京王線下高井戸駅は新宿駅から各駅停車でおよそ15分。1日の乗降者数は約6万人を数える。同駅を中心とした下高井戸商店街は、昔ながらの小さな専門店が立ち並ぶ木造密集地域でもある。都内を東西につなぐ国道20号(甲州街道)に隣接しているため、東日本大震災時には新宿方面から歩いてきた帰宅困難者がなだれ込み、各店で商品が不足するなど少なからずトラブルも発生したという。

下高井戸商店街振興組合専務理事の石井健夫氏は、「東日本大震災をきっかけに、災害時に商店街でどのようなことをしなければいけないかということを本気で考えるようになった」と話す。 

石井氏は取り組みを本格化させるため、震災直後から全国で商店街の活性化支援などに取り組んでいる街の元気づくりコーディネーターの久保里砂子氏に依頼し、商店街で防災に関する取り組みを考えてもらうことにした。 

当初は、勉強会などを開催するとともに、同商店街の店舗カタログである「しもたかマップ」の改定に乗り出した。作成して5年を経たこともあり、マップをリニューアルするとともに防災情報を入れることにしたのだ。 

しかし、単にハザードマップや防災の知識を掲載しても読む人は少ないうえに、商店街の活性化にも結び付かない。久保氏が悩んでいた時に出会ったのが、危機管理研究所代表で危機管理アドバイザーの国崎信江氏。彼女の提案する『生活防災』という考え方が、このイベントを生み出すきっかけになった。

都心住民は避難所に逃げ込めない 
「生活防災」とは、災害時に役立つものを、普段から使いながら備えるという考え方。例えば冷蔵庫には平時から多めに冷凍食品などを貯めておくだけで、被災時にも3日から1週間程度は平時と同様の食事をとることができる可能性が高まる。電力が供給されない場合も、冷凍食品がアイスパック代わりになり、冷蔵庫内を冷やしてくれる。 

国崎氏が生活防災を提唱する理由に、都内の災害時における「避難所不足」の問題が挙げられる。現在、都が想定する首都直下地震では、都内の最大避難者数を339万人と見込んでいる。これに対して現在の避難所の収容枠は336万人。しかしこれはあくまで「都民」だけを考えた場合で、実際には帰宅困難者など都外住民が避難所に押し寄せる可能性もあるため、なるべく避難所への負荷をかけないことが重要になる。そのためには、住民一人ひとりが普段から住宅の耐震強化や家具類の転倒防止を進めた上で「在宅避難」の備えをすることが重要で、平時から食料を多めにためておくなど「生活防災」が不可欠になる。