【パネリスト】


高知県知事 尾﨑正直氏


鳥取県知事 平井伸治氏


岩手県大槌町長 碇川豊氏

【コーディネーター】
新建新聞社リスク対策.com編集長 中澤幸介

東日本大震災で被災し、住民のおよそ1割が亡くなり、その後も多くの住民が職や新たな住まいを求め、町を離れた岩手県大槌町。もともと過疎化が激しかった地域だが、さらに少子高齢化が加速した。被災した東北の沿岸部が今後、生き残っていくためには、防災と活性化の両立が不可欠だ。しかし、こうした状況は、3.11による被災の有無を除いて考えれば、多くの地方が直面していると言っていい。人口減少という課題を見据えつつ、南海トラフや首都直下地震に備えていかなければならない。

国は、国土強靭化と地方創生をあたかも別々の戦略として打ち出しているが、これらは車の両輪であり、本来は一体的に進めるべきものだ。その取り組みを進めているのが高知県や鳥取県である。高知県は、南海トラフ地震による津波の脅威にさらされながら防災関連産業を基軸に活性化に舵をとる。

一方、全国1人口が少ない鳥取県は、防災の強化により、地域の活性化を目指している。10月16日に東京ビッグサイトで開催された危機管理産業展のスペシャルカンファレンスで、高知県の尾﨑正直知事と、鳥取県の平井伸治知事、岩手県大槌町の碇川豊町長にそれぞれのまちづくり戦略を聞いた。コーディネーターはリスク対策.com編集長の中澤幸介。

中澤:東日本大震災によって大きく被災した大槌町は、まず人口流出を止め、人口を増やさなければいけない。どういう対策を練っているのでしょうか。

碇川町長:人口減少、高齢化という問題が、東日本大震災によりさらに厳しくなる中で、まちづくりのキーワードとしては、防災と交流人口の拡大をメインに考えていかなくてはいけない。今、都会と地方の役割分担を見直す時期に来ている。地方には、都会には無い自然や食などの魅力がある。一方、都会人はいろいろなノウハウを持っているが、故郷を求めている。 

大槌町は漁業の町で、震災前は850人の組合員がいたが、一気に減少して今は250人になってしまった。漁業を活性化するため、漁師学校を作った。漁師の養成プログラムを作り、全国に呼び掛けている。また、東京大学とも協定を結び、「東京大学大槌イノベーション協創事業」を創設し、2013年4月に役場内に「大槌本部」を設置した。産官学連携による被災過疎地の持続的発展を促進するイノベーションを創出する事業として、現在1000人雇用を目指し、さまざまなイノベーション事業の掘り起こしを研究している。しかし、最終的にどのような「まち」をつくるかは住民が決めることだ。私は当初から、トップダウンではなく、住民主体のまちづくりをしたいとの思いで「住民主体のまちづくり条例」をつくり、住民の方からの意見をできる限り聞いてきた。

中澤:南海トラフ地震で被災リスクが高い高知県では、防災を進める一方で、防災関連産業を振興する取り組みが始まっています。そのねらいは?

尾﨑知事:南海トラフ地震対策は、県として負担が大きく、正直、企業誘致も難しい。ただ、リスクに直面しているからこそ分かることもある。高知県では、防災のノウハウを生かし、防災関連産業育成を振興している。現在、県産業振興センター内に「ものづくり地産地消・外商センタ―」を設置し、34人の職員がワンストップで「ものづくり」から「販路開拓」まで一貫してサポートする体制を構築している。川下から川上まで、ちゃんとパス回しができるように、それぞれの企業には専任の担当者をたて、段階によって専門家を紹介するなどしている。県外にも東京、大阪、名古屋に5人ずつ職員を配置して、展示会や見本市に「高知ブース」を出展することで、商談のきっかけを手伝っている。2012年に外商センターを開始し、当時の成果は2.5億円だったが、翌年には16.2億円になった。将来的には100億円規模に育てていきたい。 

リスクにさらされているからこそ、それらを強みとして、産業を振興していきたい。また、防災関連製品は食品から土木技術まで幅が広い。この部分を振興していくことは、高知県全体の産業の後押しになるのではないかとも考えている。

中澤:大規模地震などの被災リスクの少ないとされる鳥取県ですが、全市町村がBCPを策定するなど、危機管理には力を入れています。一方、人口問題は大きな課題だと思いますが、どのようなまちづくりを目指しているのでしょうか。

平井知事:被災リスクを考え、鳥取県はリスク分散を図る企業に助成措置をとっている。例えば東京からは大手旅行会社が事業分離という形で事務センターを開設した。京都からも、歯科・医科医療器具製造メーカーが工場を作っている。

また、智頭町というところでは、「疎開保険」というものを作り、これが売れている。個人で年間1万円支払うと、災害が起きた時に町に疎開できるという協定を結ぶサービスだが、配当の代わりに地元の野菜などのこだわり商品を送っている。 こうした被災リスクが少ないメリットを活性化に生かす一方で、県民や県内企業が安心して生活、事業を営めるようにするためには、被災リスクが少ないとはいえ、さらなる危機管理の強化が不可欠だ。

いろいろな形で、世の中は支え合うことができるのではと考えている。ジョン・F・ケネディはこう言っていた。「The time to repair the roof is when the sun is shining.(屋根を修理するのは、太陽が出ている時だ)。」平時の今こそ、備えを充実させる時だ。技術大国の日本に、それができないわけがない。