日本では、人口の4割が「注意エリア」に集中しているという(画像提供:地盤ネット)

「地盤のセカンドオピニオン」を提供するユニークな会社として2008年の創業以来急成長を遂げる地盤ネット株式会社。その後無料の「地盤カルテ」や「じぶんの地盤アプリ」など、生活者の地盤への関心を高めるサービスを展開し、注目を集めている。その地盤ネットが企業向けにB to Bサービスとして展開するのが「地盤安心マップPRO」だ。

「地盤調査」という言葉を一度は聞いたことがあるだろう。Wikipediaでは「構造物などを立てる際に必要な地盤の性質の把握などを目的として、地盤を調査すること。この調査により、地盤強度などが判明し、設計を行い構造物が施工できるようになる」と記述されている。断層が複雑に絡み合う日本で家を建てるには必須の調査だ。

しかし、多くの場合で地盤を調査する会社と改良工事する会社は同じであることはご存じだろうか。「第三者目線で地盤調査をすれば、過剰な改良工事を減らすことができるのでは」と、自社の独自調査を生活者に提供する「地盤セカンドオピニオン」を開始したのが地盤ネットだ。

業界唯一の「地盤セカンドオピニオン」

同社ジバングー事業部地盤安心マップPRO統括責任者の山辺雅志氏は、「当社は、業界初の改良工事を受注しない唯一の地盤解析専門会社。「地盤セカンドオピニオン」で他社が得た調査結果を再解析した結果、地盤工事が「不要」となったのは現在50%を超えている。地盤工事が不要となれば、その分の費用を設備や家具、インテリアに回すことができる」と話す。

もちろん、自社でも地盤調査・解析・対策・補償までのサービスも準備。地盤ネット社が独自に開発した地盤現地調査機は、現場で測定したデジタルデータをそのままデータセンターに送信するため、現場での転記ミスや改ざんを防止。こちらも10万棟以上の地盤を調査し、「多いときは8割程度が改良は不要という結果が出ました」(山辺氏)。万が一の事態に備え建物引き渡し日から20年間、地盤由来で建物が沈下した場合などについて最大5000万円を保証している。

人口の4割が「注意エリア」に集中

「一般の生活者にもっと地盤に興味を持ってもらいたい」と、同社が2015年に開始したのが「地盤カルテ」だ。これから購入しようとする家などの住所のデータを入力すると、災害リスクと不動産価格が一目でわかる「カルテ」がPDFデータとしてメールで送られてくる。

「地盤カルテ」ホームページのスクリーンショット

■地盤カルテ
https://jibannet.co.jp/karte/

また、2018年にリリースした「じぶんの地盤」アプリでは、今いる場所と周辺の地盤安心スコアをリアルタイムで表示。AR機能も付随し、ゲーム感覚で今いる自分の地盤を確認することができる。山辺氏は、「実は、人口の4割が利便性を求めて「赤」表示の「注意エリア」に暮らしています」とする。

赤い部分が注意エリア。しかし近隣には「緑」のエリアも存在している(画像提供:地盤ネット)

同社では、社員の福利厚生として自宅が「赤」の地盤だった場合、「緑」の場所に住み替えると引っ越し費用を会社が負担する制度を導入している。

地盤を視覚的に見える化。「地盤安心マップ」

地盤ネットが保有するデータを生かし、工務店や不動産業など家づくりのプロのために開発されたのが、「地盤安心マッププロ」だ。こちらはBtoBサービスのため月額利用料5000円(税別)が必要だが、機能を制限している「地盤安心マップ」は無料で公開されている。

■地盤安心マップ(無料版)
http://jam.jibanmap.jp/map/main.php

機能を制限しているとはいえ、データは非常に充実している。一番の特徴は、同社が保有するデータに国土地理院や国交省、各自治体などから出されているオープンデータをレイヤーで重ね合わせることができる点だ。特に無料版でも見ることができる「活断層マップ」は、熊本地震後に非常に問い合わせが増えたという。「地震安心マップ」で表示できるのは以下の16項目。


「地盤安心マップ」(無料版)表示項目

地盤ネット判定マップ
旧版地形図(国土地理院)
4年代航空写真(国土地理院)
標高マップ(国土地理院)
地形区分図(国土政策局)
日本シームレス地質図(産総研)
土砂災害危険個所マップ(国土地理院)
震度6・震度5強地震動予測地図(J-SHIS地盤ハザードステーション)
自治体液状化ハザードマップ(各自治体※無料版のみの公開)
活断層マップ(環境地質)
災害履歴図(国土政策局)
避難所データ(国土交通省)


無料版でも、これらの地図を地盤情報と重ね合わせることができるのは非常に珍しいと言える。筆者が特に活用できると考えるのは、「災害履歴図」だ。国土政策局とのデータを組み合わせ、過去に地震だけでなく土砂災害や水害、富士山の噴火による火山灰の降灰状況まで見ることができる。

写真を拡大 災害履歴図。赤い楕円が江戸時代の火山灰の降灰状況だ。(画像提供:地盤ネット)

また、「旧版地形図」「年代航空写真」なども組み合わせることにより、自分の土地が過去にはどのような土地だったのかを把握することができる。現在は市町村合併などにより、古い地名がどんどん失われて過去の情報が伝わりにくくなっている。人生に一度の大きな買い物なので、その土地の過去にどのような来歴があるのかを調べるのは、もっと普及していかなければいけない事柄だと考える。

写真を拡大 旧版地形図(画像提供:地盤ネット)
写真を拡大 年代航空写真(画像提供:地盤ネット)

家づくりのプロを対象にした「地盤安心マップPRO」

アップグレードした「地盤安心マップPRO」で見ることができるのは、以下の41項目。無料版に比べ、35項目増えている。こちらでは地盤調査会社向けにSWS(スウェーデン式サウンディング)試験結果が閲覧できるほか、特に充実しているのは「地価公示・都道府県地価情報」や「土壌汚染対策法 要措置区域等」情報、「小学校区」「中学校区」など、これまでネットなどで検索することはできるものの、別々の地図上にあると分かりにくいような情報を重ね合わせることができることだ。

また、点と点をつないで「距離」が分かる機能や、タブレット上で土地を囲むとその面積が計測されるなど、「これまで不動産業者などから欲しいと言われた情報は、価格のアップなしにどんどん追加してきている」(山辺氏)という。さらに今後も顧客のニーズに合わせたさまざまな情報を盛り込む予定だ。

自社物件マップ
1.地盤安心不動産マップ
2.自社物件地盤調査マップ
地盤調査関連マップ・データ
3.地盤ネット判定マップ
4.SWS試験データ閲覧
5.SWS試験による調査深度マップ
6.SWS試験による自沈層マップ
7.ボーリング柱状図データ
8.孔内水位マップ/土地履歴関連マップ
9.明治時代の低湿地データ(関東・近畿)
10.旧版地形図
11.空中写真(1945~1950年)
12.空中写真(1961~1964年)
13.航空写真(1974~1978年)
14.航空写真(1979~1983年)
15.航空写真(1984~1986年)
16.航空写真(1988~1990年)
地形・地質等マップ
17.標高マップ
18.地形区分図(自然環境条件図)
19.土壌図
20.日本シームレス地質図
21.土地条件図
災害関連マップ
22.浸水の可能性マップ
23.地震による揺れやすさマップ
24.液状化の可能性マップ
25.土砂災害警戒区域マップ
26.土砂災害危険箇所マップ
27.地震動予測地図(震度6強)
28.地震動予測地図(震度5強)
29.活断層マップ
30.浸水想定区域マップ
31.災害履歴図
32.避難所データ
不動産関連マップ・機能
33.地価公示・都道府県地価情報
34.用途地域データ(2011)
35.小学校区マップ
36.中学校区マップ
37.土壌汚染対策法 要措置区域等
その他
38.距離測定
39.面積測定
40.「地盤カルテ®」出力
41.住所逆検索

自社の事業所のチェックやサプライチェーンの評価も?!可能性はさらに広がる

同社ジバングー事業部地盤安心マップPRO統括責任者の山辺雅志氏

主に工務店や不動産業者向けの「地盤安心マップPRO」だが、現在は意外なところからの引き合いもある。大手のオフィス関連製品メーカーだ。実はその会社では顧客にオフィス物件などの相談にも乗っており、その時に「地盤安心マップPRO」を活用することで、顧客が事業地を選定するときに災害に強い土地を勧めることなどを検討しているという。

確かにこのソフトを活用すれば、大手の会社であれば全国に点在する営業所や事業所の地盤や災害履歴を確認することが可能になり、さらにはサプライチェーンなど、関係取引先の安全性を評価することも可能だ。

「現在は地盤の「固さ」だけでなく、「微動探査システム」という、調査地の地盤の揺れやすさ(表層地盤増幅率)を計測する調査方法も導入している。この方法は今後マンションや工場などの事業地選定の際のスタンダードになっていくのでは。企業も生活者も利便性だけでなく、「地盤」の安全にもっと着目したほうがよい。私たちはそのお手伝いをしている」と、山辺氏は地盤の重要性を強調した。

(了)