一時滞在施設の設置なども検証

約700人が参加する大規模な防災訓練が東京ドームシティで5月13日に行われた。毎年春と秋の2回、株式会社東京ドームが開催している合同防災訓練で、災害対策本部の設置、施設設備の安全確認、来場者の避難誘導に加えて、今回は帰宅困難者のための一時滞在施設設置訓練が行われた。当日は東京ドームがある文京区および東京都からも担当者が訓練の視察のために参加した。

朝9時、「震度6弱の地震発生」という第1報が放送されると、保安・防災センターである「セーフティホーム」では職員全員がすばやくヘルメットを着用し、落下物を避けて安全な場所で待機した。揺れが収まると、ただちに災害対策本部が設置され、各施設設備の安全点検の指示が出された。 

リーダーの号令のもと、ヘルメットをかぶった自衛消防隊のメンバーが目視確認のために東京ドームシティ内に走り出ていった。同時に館内に設置されたモニターを使って、負傷者や取り残された入場者がいないかどうかを確認。チェックが必要なポイントはあらかじめマニュアル化されているが、子どもが多いゾーン、階段が多い、通路が狭いなどリスクの高いゾーンは特に念を入れて確認するよう重ねて指示が出た。 

ほどなく、場内の被害状況がメンバーによって無線あるいは口頭で本部に次々と報告され始めた。その内容をリーダーが復唱し、書記担当が専用のホワイトボードに記入していった。対策本部に寄せられた報告の中には、交通機関の運行状況やライフラインの稼働状況なども混じりあっていた。 

ホワイトボードには、あらかじめ東京ドーム内の施設名や周辺の交通機関の名称がリストアップされており、未確認のゾーンやチェックポイントが一目で分かる。書記は、報告された内容に応じて要領よく該当する欄に情報を記載していった。ホワイトボードには火災発生やエレベーターへの閉じ込めの有無なども書き込めるようになっている。さらに今回は一時滞在施設の設置訓練も行われ、帰宅困難者を受け入れる施設設備がすぐに使用できる状況かどうかをチェックする欄も用意されていた。 

入場者の避難が終了し、場内の被災状況が確認されると、交通機関が停止して帰宅困難となった人々を一時滞在施設に誘導。一次集合場所には、帰れなくなった入場者に見立てたドーム職員が待機しており、誘導担当の職員は蛍光色のジャンパーを着用し、自らが目印となって帰宅困難者を、一時滞在施設が設置されたジオポリスまで誘導した。 

ジオポリス内は、男性、女性、要援護者の3つのゾーンに分けられ、滞在者が少しでも快適に過ごせるようさまざまな配慮がされていた。 

帰宅困難者に見立てた職員約700人が一時滞在施設に収容されたのは、地震発生の第1報から40分後。全体の進行がシナリオで想定していたよりも10分ほど早く、繰り返し訓練を実施することで各担当者がそれぞれの役割や動きに習熟していることが伺えた。 

訓練を視察した株式会社東京ドームの久代社長は、最後の挨拶で「一人ひとりの力は小さくても、協力することで被害を減らそう」と呼びかけて訓練を締めくくった。 

参加者がジオポリスを退出する際、事務局が災害用の水と非常食を出口で配布した。しかし、出口に退出者がどんどんつめかけたため、物資の配布窓口に人が集中。しばらくしてこの状況に気付いた担当者は、配布要員を増やしたが状況はあまり変わらない。そこで、配布用に設置していた机の位置を変え2つだった退出ルートを3つに増やすと、一気に人の流れがスムーズになった。 

実はこれも訓練の一環で、大勢の滞在者にいかに効率よく必要な物資を配布するかが検証された。実際の災害時には指揮官が不在となる可能性も想定し、その場で各自が判断し、自律的に行動できるかが試された。

(記事執筆:株式会社シーエーシーシニアコンサルタント川村丹美氏)