新型コロナ対応のちぐはぐさはどこから?
第1回:免疫システムと防災システム
河村 廣
1967年3月神戸大学大学院工学研究科修士課程建築学専攻修了。同年、川崎重工業入社。その後、山下設計を経て70年4月神戸大学工学部助手となり、助教授、教授を経て2005年3月に定年退職、同年4月より同大学名誉教授。88年9月から10カ月、テキサスA&M大学客員研究員、04年度は東北大学客員教授、05~06年度は東北大学非常勤講師。工学博士、一級建築士。
2020/11/25
免疫防災論
河村 廣
1967年3月神戸大学大学院工学研究科修士課程建築学専攻修了。同年、川崎重工業入社。その後、山下設計を経て70年4月神戸大学工学部助手となり、助教授、教授を経て2005年3月に定年退職、同年4月より同大学名誉教授。88年9月から10カ月、テキサスA&M大学客員研究員、04年度は東北大学客員教授、05~06年度は東北大学非常勤講師。工学博士、一級建築士。
新型コロナウイルスの対応に明け暮れた2020年も11月半ばを過ぎ終盤を迎えた。世界的感染爆発(パンデミック)は収まる気配がなく、日本でも冬本番を前に第3波の到来が指摘され、経済対策とのバランスが大きな課題となっている。
このたびのコロナ対応に関係各位が必死に努力しておられることには敬意を表したい。しかし、行政的な対応あるいは対症療法的な措置がかえって問題をこじらせ、意図と結果をちぐはぐにしている感を拭えないのは筆者だけだろうか。端的にいえば、科学的なアプローチがいささか足りないと思うのである。
筆者は感染症に対しては門外漢であり、素人のそしりは免れない。それでも、そのことを自覚したうえで、パンデミックを含めた想定外の災害というものに対応できる「社会防災システム」とはいったいどのようなものなのか、この機会に考察してみたいと思う。
その前に、防災の基本的な手続きについて筆者の考えを整理したい。今回のコロナ禍において、本来は不可欠であるはずのアプローチが大きく欠落していると感じるからだ。
大規模な地震災害であれば、まずは向こう50年、100年の間にどれだけの揺れがどこに、どれだけの確率で発生するか予測し、そしてそれが発生したときに社会がどれだけの損失をこうむるかを試算することが前提だ。損失に確率を掛けた数値を「期待値」というが、これを把握したうえでいかに抑えるかが、防災における「公助」の重要な部分を占める。
地震の場合は事故と違って起きる確率を減らすことはできないから、こうむる損失をいかに減らすかがカギ。そのためには、ハード・ソフト両面から投資をしなければならない。例えば堤防や道路などのインフラを整備したり、いざというときの連携体制や避難体制を強化したり。そうした投資を行ったうえで、どれだけ「期待値」の抑制に効果があるのかを常に検証しながら取り組みを進めていくプロセスが不可欠だ。
こうした基本的なアプローチは、パンデミックにおいてもおそらく変わらない。実際、過去の文献やデータをひも解けば、将来におけるパンデミックの発生確率やそれによる社会的損失を導くことは困難ではないだろう。これに対して有効な投資を行うこと、例えば医師・看護師を確保したり病床を増やしたりして医療資源を守ることが、感染症対策における「公助」の重要な部分を占める。
しかし、今回のコロナ対策においては、そうした議論がほとんどみられず、政府・行政は場あたり的な対応に終始している。
どのような対策をどのレベルで行うかの判断には、もちろん政治的・経済的な意図が入り、国情も関係する。難しさがあるのは承知だが、前述のような手続きを踏まず、当座の感染者数をベースに政治・行政と専門家がなれ合って、子どもにいいきかせるがごとく「マスクをしなさい」「三密を避けなさい」「手を洗いましょう」と繰り返すさまは、ただコロナを恐れているだけといわざるを得ない。
そもそも手洗いやうがい、マスク着用、三密回避などは生活習慣上の知恵であり、庶民が行うことだ。防災でいえば「自助」に該当する。政治・行政が行うべきはあくまで「公助」であって、庶民が経験則にもとづいて行う公衆衛生上のアプローチを『科学的知見』と称してことさらに取り立て「みなさん何とかしのぎましょう」というのは、科学的でないばかりか、人道的でもない。
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