想定を超えて活動する「私的防災拠点」の発生と進化
第3回:事例的考察 阪神・淡路大震災

河村 廣
1967年3月神戸大学大学院工学研究科修士課程建築学専攻修了。同年、川崎重工業入社。その後、山下設計を経て70年4月神戸大学工学部助手となり、助教授、教授を経て2005年3月に定年退職、同年4月より同大学名誉教授。88年9月から10カ月、テキサスA&M大学客員研究員、04年度は東北大学客員教授、05~06年度は東北大学非常勤講師。工学博士、一級建築士。
2020/12/23
免疫防災論
河村 廣
1967年3月神戸大学大学院工学研究科修士課程建築学専攻修了。同年、川崎重工業入社。その後、山下設計を経て70年4月神戸大学工学部助手となり、助教授、教授を経て2005年3月に定年退職、同年4月より同大学名誉教授。88年9月から10カ月、テキサスA&M大学客員研究員、04年度は東北大学客員教授、05~06年度は東北大学非常勤講師。工学博士、一級建築士。
1995 年兵庫県南部地震(気象庁マグニチュードMj7.3)は、耐震化された近代都市を未明に襲った直下型地震である。空前の被害を生じた痛ましい出来事であり、阪神・淡路大震災として深く歴史に刻まれている。
都市直下型大地震の被害の大きな特色は、都市がシステムとして、さらに形容すればあたかも生命体として、傷つき苦しみのた打ちまわる様相である。それは、硬直化した従来の機械的な対処法がほとんど無力であることを示している【6】。
被災地の神戸市は、筆者の現役時代の大学の所在地であり、筆者自身も業務上では被災者の一員として震災の渦中にあったことをまず断っておきたい。
前回紹介した[図3]の記憶細胞、すなわち[図4]の公的防災拠点(首相官邸、兵庫県、神戸市、消防署など)は、予想外の被害に地震直後その甚大さを十分認識できず、初動態勢としての救助隊の派遣や物資の輸送などは、準備不足や横長の都市形態、道路閉塞などのために極めて効率の悪いものであった。
特に木造密集地帯の老朽化住宅の倒壊と火災が大惨事を招いたことは、いまだ国民の記憶に鮮明だ。想定外の規模であり、道路閉塞もあり、消防署や消防車などの公的防災拠点はなす術もなかった。また復旧・復興に対しても、制度や法律の整備が極めて不十分だったこともあるが、公的防災拠点は限界を露呈したといえよう。
しかし、本震災を教訓にして世論の後押しもあり、その後の震災に対しては行政の対応が進み、法的整備も図られるようになったのは喜ばしいことである。
一方、同じく[図3]の抗体産生細胞、すなわち[図4]の私的防災拠点については、生命体の過度の火傷に当初こそ出番はなかったが、時間の経過とともにケースバイケース、TPO、臨機応変など、想定外の救助活動が地道な成果をあげ、さらにその後の防災対策に生かされている例があった。
代表的な事例として、ボランティア活動とインターネットについて考察を加えてみよう。検討手順は以下の必須条件に従う。
1.[図4]免疫防災システムへの適合性
2.複雑系ネットワーク、マルチエージェントシステムへの適合性
3.多様性、分業性、補充性、進化性、ユビキタス性への適合性
※参考文献
【6】河村廣「地震と共生する生物指向都市、機械指向型都市から生物システムを指向した都市へ」(Bio City)1995 年、Spring no.4、pp18~23
免疫防災論の他の記事
おすすめ記事
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方