試行錯誤を繰り返す私的拠点、支える公的拠点
第6回【最終回】:免疫防災システムの本質

河村 廣
1967年3月神戸大学大学院工学研究科修士課程建築学専攻修了。同年、川崎重工業入社。その後、山下設計を経て70年4月神戸大学工学部助手となり、助教授、教授を経て2005年3月に定年退職、同年4月より同大学名誉教授。88年9月から10カ月、テキサスA&M大学客員研究員、04年度は東北大学客員教授、05~06年度は東北大学非常勤講師。工学博士、一級建築士。
2021/02/10
免疫防災論
河村 廣
1967年3月神戸大学大学院工学研究科修士課程建築学専攻修了。同年、川崎重工業入社。その後、山下設計を経て70年4月神戸大学工学部助手となり、助教授、教授を経て2005年3月に定年退職、同年4月より同大学名誉教授。88年9月から10カ月、テキサスA&M大学客員研究員、04年度は東北大学客員教授、05~06年度は東北大学非常勤講師。工学博士、一級建築士。
第3回、第4回、第5回の事例的考察で阪神・淡路大震災と東日本大震災、新型コロナ感染症を比較し、免疫防災システムの本質が明確に見えてきた。
想定外の災害に対し、私的防災拠点は大いに治療的効果を発揮する。それは災害を事前に予想して準備されたものではなく、住民の間で日常的に用いられていた手法や機器類であるからである。複雑系としての特質に適っていれば、災害の発生後も臨機応変に進化していくことが可能である。
他方、公的防災拠点は過去の災害の経験に学び、次なる災害に十分に対処できるよう準備されたものである。しかし、過去の災害は限定されたタイプであることから、想定外の規模や質の災害にはほとんど無力であり、場合によっては妨げになることもある。免疫反応が逆に母体を傷つけるとアレルギー症状が生じるのと同じで、要注意である。
ただ、公的防災拠点の過信は禁物であるが、私的防災拠点と相互補完的な働きをすることは論をまたない。繰り返しになるが、多くの場合、前者は(国や自治体の)マクロの、後者は(住民主体の)ミクロの視点から機能することになる。しかし後者が進化、肥大化すると、前者に接近または転化、融合することも多々ある。後天的な免疫システム(公的防災拠点)は初めての感染(想定外の災害)のたびに進化していくことになる。
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