2014/07/25
誌面情報 vol44
「仲間がいたから悲しみを乗り越えられた」
東日本大震災の被災地では今、被災住民のニーズに応えるため、さまざまなコミュニティビジネスも誕生している。
2011年11月、被災住民や町外からの支援者が中心となり「一般社団法人おらが大槌夢広場」が誕生した。町民・専門家を含めた幅広い知識と行動力を結集させ、行政機能の低下した分野の補完をはじめ、外部への情報発信強化、地場産業やツーリズムの活性化、町民の起業独立支援などを行っている。
「行政が麻痺して動けない状況では、我々がどうにかしなくてはいけない。自営業をやっている人たちで会議をして、何ができるか話し合うことから活動を開始しました」。代表理事の臼沢和行氏は設立の経緯をこう説明する。
臼沢氏は高校卒業後、静岡熱海で測量設計の会社に入社。廃れた観光地が好きで、10年近くを熱海で過ごしたが、生まれ故郷の地域を再生させたいとの思いで帰郷した矢先、東日本大震災に遭遇した。役場職員の彼女と結婚を予定していたが、津波で被災し、帰らぬ人となった。
「仲間がいたから、悲しみを乗り越えられた」(臼沢氏)。
震災直後の2011年4月からNGOのメンバーとして大槌町の支援に参加した神谷未生氏も発起人の一人。「大槌町を支えているというよりは、やっていて自分が楽しいし、学ばされることがたくさんある」(神谷氏)。
とは言え、自分たちで起業するのは初めての経験。最初は、町外からボランティアに来てくれる人たちのために、何か大槌の美味しいものを作ってお返ししたいと復興食堂を始めた。「南部鼻曲り鮭といくら丼など、美味しいものを味わってもらって、少しでも長くいてもらいたかった」(臼沢氏)。
復興食堂は、その後、個人経営をしたいという被災者の仲間に譲り、今は大槌町内の企業の研修や国内外からの視察の受入れ、復興資料館の運営などを行っている。町の復興の様子を全戸に配布する大槌新聞も毎週発行して町内全戸に無料で送り届けている。全国紙や広報では伝えきれない複雑かつ多岐にわたる町の復興情報や、住宅再建、これからのまちづくりに関する記事を、町民目線で、高齢者でも読めるように大きな文字で伝える。
「町が復興した後も、地域のコミュニティを守るため、自分たちの新聞が必要です」(神谷氏)。
地域再生を手がけるようになって、「なぜ、自分たちでまちづくりをしようとしないのか、参画しようとしないのか、住民自治の基本を疑問に思うようになった」と臼沢氏は話す。
「もともと、ここら(大槌)の人間は、知識がない、前に出ようとしない、新しいことをしようとしない。もっと新しい世界があることに気づいてもらい、チャレンジ精神が生まれる仕組みをつくっていけば、地域は再生できるはず」。
大槌新聞は、住民が自分たちのまちを取り戻していくためのいわば土壌づくりだ。町外からの視察の受け入れや交流会も企画する。「外から来れば、被災地に学べることは多いかもしれないが、それ以上に、我々住民が外の人から学ばせていただくことは多い」(臼沢氏)。今では海外から訪れる人も少なくない。外部との交流を通じ、まちづくりに対する住民の姿勢も少しずつ変わってきているという。
現在の課題は、活動経費の捻出。町からの緊急雇用費で活動しているが、それが出なくなったら多くの活動が続けられない。
「もちろん、お金があれば嬉しいですが、今必要なのは、地域活性化や起業のノウハウを持った人。一時的な支援ではなく、ずっと伴走してくれるパートナーがほしい」と神谷氏は話している。
誌面情報 vol44の他の記事
おすすめ記事
-
DXを加速するには正しいブレーキが必要だ
2月1日~3月18日は「サイバーセキュリティ月間」。ここでは、企業に押し寄せているデジタルトランスフォーメーション(DX)の波から、セキュリティーのトレンドを考えます。DX 時代のセキュリティーには何が求められるのか、組織はどう対応していくべきか。マクニカ ネットワークスカンパニー バイスプレジデントの星野喬氏に聞きました。
2025/03/09
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/03/05
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/03/04
-
-
-
トヨタが変えた避難所の物資物流ラストワンマイルはこうして解消した!
能登半島地震では、発災直後から国のプッシュ型による物資支援が開始された。しかし、物資が届いても、その仕分け作業や避難所への発送作業で混乱が生じ、被災者に物資が届くまで時間を要した自治体もある。いわゆる「ラストワンマイル問題」である。こうした中、最大震度7を記録した志賀町では、トヨタ自動車の支援により、避難所への物資支援体制が一気に改善された。トヨタ自動車から現場に投入された人材はわずか5人。日頃から工場などで行っている生産活動の効率化の仕組みを取り入れたことで、物資で溢れかえっていた配送拠点が一変した。
2025/02/22
-
-
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP
神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立した対応ができるように努めている。
2025/02/20
-
能登半島地震の対応を振り返る~機能したことは何か、課題はどこにあったのか?~
地震で崩落した山の斜面(2024年1月 穴水町)能登半島地震の発生から1年、被災した自治体では、一連の災害対応の検証作業が始まっている。石川県で災害対応の中核を担った飯田重則危機管理監に、改めて発災当初の判断や組織運営の実態を振り返ってもらった。
2025/02/20
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方