2014/07/25
誌面情報 vol44
震災から3年 東日本大震災関連倒産の実態
東日本大震災関連の倒産負債累計は2014年3月時点で阪神・淡路大震災の7倍に上るおよそ1兆5000億円。島根県と沖縄県を除く45都道府県で企業倒産が発生し、今なお被災地はもとより全国規模で関連倒産は続いている。倒産の理由、倒産が長引く要因について東京商工リサーチ経済研究室の関雅史課長に話を聞いた。
「花島電気産業(株)~東日本大震災の影響を受け、都内初の破産開始決定。負債総額3億円」。東京商工リサーチ発行の企業の倒産・信用関連情報誌「TSR情報」には、東日本大震災が発生した2011年の4月5日号に都内初の震災関連倒産記事が掲載された。
板橋区に本社を構える花島電気産業は1963年に設立。資本金1000万円の中小企業で、もともと小型トランス(変圧器)やコイルの製造を主力事業にしてきた。震災時は携帯電話のアンテナや自動車のアンテナを主に製造。宮城県石巻市に工場を構え、顧客には大手アンテナメーカーもいた。携帯電話用アンテナ需要が旺盛だったピーク時の2001年には正社員15人のほか臨時職員9人が働き、年商15億7100万円を上げていたが、その後は携帯電話のアンテナ内蔵化などで需要が減少。リーマンショック後の2009年には年商が4億8000万円にまで落ち込み、さらに東日本大震災が発生したことが倒産に追い打ちをかけた。石巻にある工場の被災は限定的だったものの、仕入先が被災したことで材料調達が滞り売り上げが立たず、3月末の決済が困難になったという。
「TSR情報」は2011年3月25日号で全国初の震災関連倒産を報じて以来、これまで3年以上も震災の影響を掲載し続けている。
2つの震災による倒産状況を分析する
東京商工リサーチ情報本部経済研究室の関雅史課長は「阪神・淡路大震災の影響による倒産は、今から考えてみれば局地的なものだった。東日本大震災の関連倒産は、サプライチェーンの分断が大きく影響し、全国規模に及んだ」と話す。
2つの震災による関連倒産の内訳を詳細に比べてみると、まず阪神・淡路大震災の関連倒産は3年間で314件だったのに比べ、東日本大震災関連倒産は4.4倍の1402件に達した(2014年3月7日時点)。また、倒産内容を工場、施設、機械や人的被害を受けたものを「直接型」、取引先の被災などサプライチェーンの分断によるものを「間接型」とすると、阪神・淡路大震災では「直接型」が3年間で170件だったのに対し、東日本大震災では直接型110件、間接型1292件と、間接型が大勢を占めた(表1、2)。関課長は「阪神・淡路大震災で倒産したのは神戸市長田区のケミカルシューズ工場など、局地的な直接倒産が多かった。東日本大震災は、東北に集まっていた部品製造工場が津波被害に遭ったため、大手の自動車メーカーでさえ世界的に生産が滞ることになるなど、取引先・仕入先の被災による販路縮小や製品・原材料資材の不足、受注キャンセルなど日本全国規模でサプライチェーンの分断による関連倒産が起きた(図1)」と2つの震災による倒産状況を分析する。
風評被害も拍車
もう1点関氏は、東日本関連倒産で特徴的なこととして、福島の原子力発電所事故に伴う風評被害が大きかったことを挙げる。今回の関連倒産で最も負債総額が多かった倒産は栃木県の安愚楽牧場。その負債総額は4330億円にも上る(表3)。それまでの経営内容も決して健全なものではなかったが、放射能汚染の風評被害が倒産に拍車をかけた格好だ。そのほか、旅館・飲食店などのサービス業で被ばくによる風評被害が発生したのはある程度予想できることだが、実は部品メーカーでさえも「(製造した)部品にセシウムが付着しているのではないか?」という風評が発生し、倒産の一因になったところもあった。
ただ、仮に風評が発生せずとも、大手メーカーでは地域リスクの観点から、震災直後に他の地域の部材メーカーに生産をシフトする企業も多かったという。生産ラインが立ち直っても受注が激減し、倒産に至った会社も多かった。リーマンショック以降は、中小企業にとっては取引先会社からのコストカットの要請も強く、収益力が弱まっていた企業が多い。そこに対しての被災や風評被害によるダメージは、優秀な経営者であっても乗り切れないほどだったことは想像に難くない。
倒産を産業別に見てみると、3年間に倒産した1402社のうち、旅館・ホテルや飲食店などのサービス業の倒産は355件。製造業は330件で1位、2位を占め、被害総額でみるとサービス業は約3500億円、製造業は約3800億円となり、製造業がいかに今回の震災で痛手をこうむったかが分かる。
現在でも発生が続く震災関連倒産
東日本大震災関連倒産は、2014年5月では16件。25カ月連続で減少を続け、収束に向かいつつあるといわれる。しかし、関課長は倒産全体は底打ちから、増加気配を強めていると読む。震災後、国の補助金などでかろうじて事業をつないできた企業が、販路回復がうまくいかなかったり、後継者がいないなどの理由で、今になって結局事業を断念してしまう企業が今後も続くとする。加えて、4月には消費税が8%にアップされた。消費税アップは直接倒産に結びつくわけではないが、駆け込み需要による人件費の上昇や、反動減による売上低下、さらに消費税アップによる光熱費など諸経費の上昇は、企業の財務体質をジワリと圧迫する可能性が高いと懸念する。
関氏は「震災とは直接関係ないが、リーマンショック後に施行された中小企業金融円滑化法も2013年3月末に終了。実質的には金融機関は返済スケジュール変更など金融支援を続けているが、景気回復が遅れる地方や業績回復が遅れた企業、延命策でしのいできた企業は手元資金が欠乏することから、今後、特に中小企業を中心に事業継続が厳しくなるところが多くなるのでは」と話している。日本経済にとって震災の傷が癒えるのは、まだまだ先の話になりそうだ。
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