被災状況に応じた支援体制を構築

東日本電信電話(以下、NTT東日本)は、GIS(地理情報システム)を活用した独自の情報共有システムにより、災害対策本部が速やかに現地の復旧作業などを支援できる体制を構築している。現地が撮影した画像や動画を、地形や建物の形まで精密に反映させたGISシステム上で即時解析し、それを支店や本社が共有する。位置情報も備えており、現地の状況に応じた迅速な支援を可能にする。

「どのくらいの電柱が津波で被害を受けたんでしょうか?」「概算になりますが、2万8000本程度かと推定しています」。2011年の東日本大震災時に、実際に報道機関とNTT東日本広報室の間で行われた会話の一部だ。この概算数字の算出にあたり活躍したのが、NTT東日本の危機管理情報システム。子会社であるNTT空間情報が作成した国内トップクラスの精度を有する地理情報システム(GIS)を使用し、電柱や電線などのケーブル、マンホールに至るまで同社の設備に関する詳細な情報が入力されている。航空写真や衛星画像を基に作成されているため、位置情報だけでなく、施設の形状、周辺の地形情報まで反映され、その適合精度は国土地理院地図情報の原典データへ採用されるほどだ。 

東日本大震災では、津波による被災エリアの情報を、このGISに重ね合わせることで、被災した電柱の本数の概算が可能になった。災害が起きた時に報道機関など外部から電柱の倒壊状況を聞かれることが多いため、GISを被災部分と重ね合わせることで自動集計する機能を持たせているという(図1)。 

NTT東日本の危機管理情報共有システムの特長は、それだけではない。GISに画像や動画を載せることで平時から現場作業班と支店、本社災害対策室らが情報を共有できるようにしている。 

例えば、北海道のある地域で、電柱に付属する機器が豪雪のため故障し、サービス部隊が修理に向かったとする。しかし現場にたどり着いたものの周辺が雪で埋もれて近寄ることができない。このような時には、現場に到着した社員が携帯電話のカメラで写真を撮って危機管理情報共有システムに送る。携帯電話のGPS(衛星測位システム)機能をオンにしてシステムに送信すると、正確な現地の場所と画像データ、被災前の施設データなどがGIS上に表示される仕組みだ(図2)。

それを各支店が確認することで、必要な手配を早期に行うことができる。この案件なら、写真を分析することで何メートルくらいのバケット車(高所作業車)が必要かも分かる。位置情報により、どこから作業車を手配すれば一番効率が良いか即時に判断できるほか、どの道が雪により通行困難かも分かる。


動画の共有で対応をナレッジ化 
NTT東日本は、このシステムを使用して静止画だけでなく動画を共有する取り組みも始めている。現在、同社が保有するほとんどの作業車には、動画を撮影するビデオカメラと、その送信装置が搭載されている。災害時には、車から被災地の状況を撮影しながら調査し、そのライブ映像を対策本部で見ることが可能だ。もちろん動画ファイルはサーバーに蓄積されていくので、後から見直すこともできる。例えば電線などのケーブルが断線した場合には、ビデオカメラでライブ中継しながら対策本部に作業の指示を仰ぐ。その様子を記録しておき、社内で共有すれば情報のナレッジ化にもつながる。ビデオカメラの使用や対処方法は基本的に現場の判断に任されているが、対策本部が現場の報告内容が分からない場合にライブ中継を指示することや、現場からうまく説明できないので動画で見てほしいと要請することもあるという。送信装置にはGPS情報もついているので、作業車から撮影していればGIS上での追跡も可能だ。 

また、地図データにはNTT東日本が所有する施設データもすべて入力されているため、どのように現地に行けるかナビゲートも可能だという。津波の高さなどの情報を入力すれば、被災道路を避けて現地に向かうこともできる。 

このシステムのもう1つの大きな利点は、本社の災害対策本部や全国支店の対策本部と、常にシステム上で情報共有をしているため、各対策本部が、本社に細かい報告を上げる必要がないことだ。本社からは常に被災現場の状況がシステムで確認できているため、危なそうであれば周りに応援要請ができる。復旧に専念している現地対策本部の作業の軽減にもつながる。