2014/05/25
誌面情報 vol43
被害状況、対応状況をリアルタイムで管理
昨年は桂川が大雨による水害で氾濫し、観光地である渡月橋付近が大きな被害を受けた京都府。人口260万人で日本有数の観光地を擁し、毎年国内外から数多くの観光客が訪れる。また、福井県の高浜、大飯原発に近接し、UPZ(緊急時防護措置を準備する区域:原発から概ね30km圏内)に8市町が含まれる。府では今年1月、5市10町1村の26市町村をはじめ消防、警察、自衛隊などの災害対応における関係機関がリアルタイムで被災状況や対応状況を共有できるシステムを構築し、4月から運用を開始した。
京都府はここ2年、連続して大きな水害に見舞われている。昨年9月には台風第18号により、由良川、桂川の水源地帯に豪雨が発生し、観光地である京都市嵐山や福知山市などで多数の床上、床下浸水が発生した。災害情報を市町村と一体となって情報共有し、府民に被害情報や避難情報をいち早く知らせることは、京都府の大きな課題だった。
京都府の災害時の体制は、風水害などの場合、注意報が出ればまず災害警戒本部を立ち上げる。災害警戒本部と災害対策本部を使い分けており、警戒本部は被害が発生する恐れがある段階で設置。相当の被害が予想される時や実際に被害が発生した場合に災害対策本部に移行する。事務局となる府民生活部防災・原子力安全課では、気象庁から大雨注意報が発表された段階で最低2人、警報が発表されたら最低6人が本部に詰める。さらに、台風直撃などの場合には10人以上が詰める。このほか土木事務所など現地事務所に職員が参集し、警戒体制をとることになっている。注意報、警報、特別警報と、状況に応じて警戒態勢を強化していく仕組みだ。地震などの突発災害の場合は、最初から災害対策本部を立ち上げることになる。
一方、市町村については、それぞれが状況に応じて対策本部を立ち上げることになるが、警報が出れば被害が発生する可能性が高まるため、府との連携を強化し、被害が発生すれば即座に府に連絡。府は、連絡を受け直ちに対応できる体制を整えることになっている。
ただし、このような体制を確実に実行に移すためには、府と市町村がリアルタイムで情報を共有できるシステムが不可欠になる。そこで昨年、市町村と研究会を設置。災害対応の専門家である京都大学防災研究所の林春男教授の助言を受け、新しい情報共有システムについて議論を重ね、半年間の開発期間を経て、今年1月から新たなシステムの稼働に漕ぎ着けた。
取りまとめの時間を節約
従来は、災害が起きれば市町村の現場担当者がそれぞれの自治体の災害対策本部に現況を報告し、各災害対策本部が状況を取りまとめた上で府内の地域機関である4つの広域振興局に連絡。さらに広域振興局が管轄市町村の情報を取りまとめ、本庁に連絡するというステップを踏んでいたため、現況確認と府への報告に大きなタイムラグが生じていた。
府と各市町村の災害対策本部は専用回線で結ばれ、市町村の担当者は専用回線に接続されている特定のパソコンから状況を打ち込んでいたが、パソコンの台数が限られている上に、災害が大きくなればなるほど担当者が現場対応に追われてしまい、入力が遅れる傾向にあった。また、専用回線を介さずにいくつかの情報は断片的に電話やファックスで入り、報告される内容が矛盾していることもあったため、それらの情報を一つひとつ電話で確認するなどのやり取りが発生し、結果としてシステムに入力する時間がますます遅れていくなど悪循環に陥っていた。広域振興局でも上がってきた報告の内容を点検する作業があり、いくつもの階層をクリアしないと情報が本庁まで上がらない仕組みになっていたという。
また、各現場からの情報を一元集約するだけでなく、全ての現場で共有できる仕組みも必要とされた。災害対応の情報が共有されなければ、同じ被害現場に別々の組織が重複して対応にあたるなどの無駄が生じかねない。理想としては、現場から、それも防災担当課ではなく、それぞれの所管の職員が道路や河川の状況などを直接入力し、それらへの対応状況についても全て府や市町村、関係機関が共有できればいい。そうすれば途中の段階で取りまとめるような手間や人も要らなくなり、災害の現場対応にあたる人員を増やすことができる。そのような発想から、今年度新しく構築されたのが「京都府防災情報府民共有システム」だ。
知事の思いで市民にも情報提供
今回のシステムに防災情報「府民」共有システムという名前が付いているのは、実は山田啓二知事の強い思いがあった。京都府府民生活部理事の前川二郎氏は「情報共有は関係する機関だけでなく、府民とも共有できなければならない。災害はいち早く府民と共有してこそ価値があるとの知事の信念から、システムは情報共有する対象をさらに増やしていくことになりました」と説明する。
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