関西発で全国展開も視野に

東日本大震災で浮き彫りになった大きな問題点の1つが、報道機関による自治体やライフライン会社へのメディアスクラムだ。災害発生後にメディアからの取材、問い合わせが殺到すれば、災害対応の妨げになる恐れもある。阪神・淡路大震災を経験している関西地域では、メディア・自治体・ライフライン会社などが中心となってユニークな災害時情報共有システムの開発に取り組んでいる。かんさい生活情報ネットワーク協議会事務幹事の一般財団法人関西情報センターに新しいシステムについて話を聞いた。

東日本大震災の直後、仙台市など東北の自治体やライフライン企業には、さまざまなメディアからの問い合わせが殺到した。1つの会社でも、仙台支局と東京本社から同じ内容の問い合わせが入るなど、大混乱が生じた。また、報道機関へのニュースリリースや緊急時の連絡はFAXが中心だったため、文字がつぶれて読めないなどの問題や、時系列が混乱し、リリースを訂正しても何に対する訂正かも分からないなど、情報共有に大きな課題を残した。 

阪神・淡路大震災で同様の経験をした関西の自治体、報道機関、ライフラインなどは、2012年夏ごろから大規模広域災害時の情報共有システムについての意見交換会を開催。後に一般財団法人関西情報センターなどが加わり、「かんさい生活情報ネットワーク設立発起人会」が2013年3月に設立した。報道機関をはじめ、政府、自治体、ライフライン企業などの関係者による検討を重ね、同年6月に開設されたのが官民連携による情報共有サービス「かんさい生活情報ネットワーク」だ。運営は「かんさい生活情報ネットワーク協議会」(会長:神戸大学名誉教授・室﨑益輝氏)が行い、発起人をはじめ開発に携わった関係機関、今後情報を提供したい機関、情報を共有したい機関など82組織が加盟している(2014年4月末現在)。

「入力しやすいシステム」を目指す 
システムの構造はいたってシンプルだ。まず、加盟団体の危機管理や広報担当者は決められたアカウントのIDとパスワードで入力画面にログインする。ログインした画面にリリースなどの情報を入力すれば、それが協議会メンバー間で共有される。 

あえて入力用のテンプレートなどは設けず、テキスト、Word、PDFファイルのほか画像、動画ファイルなど、基本的にどのようなデータファイルでもドラッグ・アンド・ドロップだけで入力でき、クラウド上にデータベース化されるようにした(図1)。通常のシステムであれば「見出し」「本文」などを別々に入力していくが、「お互いに信頼関係があることを前提に、被災時の入力者の負担軽減を第一に考えてこのようなシステムにした」という。開発の工程で「見出しや内容が一目で分かるようにした方がいいなど、様々な議論があったが、現在のところは、誰もが使えるシステムにすることを優先させている」と、システム開発を担当したスマートバリュー公共クラウドディビジョンの原口氏は話す。ただし、協議会ではどのようなリリースの形式にすれば報道機関が見やすいかなど、定期的に意見交換会を開いており、可能な範囲で改善が図られているという。 

システムのトップページは、上下水道、通信、電気、河川・気象など19のカテゴリに分けられる。新しいものから新着順にトップページに表示され(図2)、古い情報は時系列にアーカイブページに格納されていく。カテゴリは現在の加盟会員の業種に応じて設定されていて、情報の信頼性を確保するため、あらかじめ登録されたカテゴリ以外の情報は閲覧はできて

も、情報を提供することはできない仕組みになっている。カテゴリーは、これから加盟する会員組織の業種などに応じて増やしていくことも可能だ。

新しい情報が入力されると、上PCで音声メッセージが流れるほか、メールで登録したメンバーに発信される。情報が多くなりすぎた場合はメールの本数などを制限することも可能だ。情報はRSSとXML(※)で出力しているため、受け手側でシステムを構築すれば、例えばテレビのL字放送等へ直接配信させることもできる。

※RSS…RDFSiteSummeryの略。文書の見出しなどを自動抽出するシステム記述フォーマット。
※XML…ExtensibleMarkupLanguageの略。文書やデータの意味や構造を記述するための言語の1つ。