2020/10/01
インタビュー
「ちゃんと指示したはずなのに徹底されない」
「繰り返し同じようなことを言われて聞く気にならない」
「なぜ、こんなことまで言われなくてはいけないのか理解できない」……。
新型コロナウイルスの対応を巡っては、組織内のコミュニケーションがうまくいっていないケースもあるようだ。未知のウイルスなだけに、人によってリスクの受け止め方や考え方が異なり、ちょっとしたことで、お互いの不信感が高まってしまう。顧客などとの対外的なコミュニケーションについても、どのような文面にするか、どのタイミングでどう発表するか、悩む企業は少なくない。リスクコミュニケーションに詳しい放送大学教授の奈良由美子氏に、ポイントや注意点を解説してもらった。
一方通行ではなく、相互作用
リスクコミュニケーションとは、リスクへのよりよい対応のために、当該リスクに直接・間接に関係する人々が、リスクについて情報や意見を交換する相互作用プロセスのことをいいます。
よく誤解されるのですが、記者会見を開いて、あるリスクに対する注意を呼びかけるようなことをリスクコミュニケーションという方がいらっしゃいます。しかし、これはリスクコミュニケーションのごく一部です。コミュニケーションの相手の状況や、そのリスクについてどう思っているのかに耳を傾け、分析し、その上でどうしてほしいかを伝えたり、どうすればよいかを共考したりするなど、情報や意見のやり取り全体を指します。
今回のコロナウイルスでいえば、行政などから「三密を避けてください」という発表がよくされていますが、これはリスクコミュニケーションの一部です。もちろん大事なことですが、実のところ、そのメッセージを受け取った国民が、発信者の意図を正確に理解しているかどうかは分からないわけです。ですから、それぞれがどのように新型コロナウイルス感染症に対するリスクを考えているか、どのように行政などからの情報を受け止めているのかを確認するということも、大切なリスクコミュニケーションです。誰もが感染症は怖いし、避けたいと思っているはず。しかし経済的、あるいは社会的なさまざまな複合的なリスクが加わり、それぞれがリスクの管理主体としてこうしたリスクを評価・分析して、その中でどういう行動をとるかを、その主体なりの合理性をもとに判断しているのが今の状況です。
リスクというのは、その人その人によって捉え方が異なります。決して自分のフレーミングで全てを決めつけず、その人はなぜそのように判断するのか、なぜそのような管理手法をとるのかという点も突き詰めて探った上で情報発信することが重要だと思います。
普段と信頼が大切
個人的な意見にはなりますが、リスクコミュニケーションを成功させる一番のポイントは「普段のあり方」だと思っています。そもそも普段からコミュニケーションができていなくてリスクコミュニケーションだけがうまく行えるはずがありません。
企業で例えるなら、風通しが悪く、上司に意見が言えない、お客さまに対しても積極的に情報を公開していない企業が「うちはリスクコミュニケーションだけはうまいんですよね」などと言えるはずがありませんし、それはあり得ないことです。リスクが具現化した後のクライシスコミュニケーションにおいてはなおさらで、記者会見を見ても、普段コミュニケーションができている会社とそうでな
い会社はすぐに分かりますし、災害時に的確な避難指示を出された自治体などを見ると、普段から住民としっかりしたコミュニケーションが行われているように思います。
また、専門家とのネットワークを作っておくことも必要で、いざ事が起きてから、どのような専門家と連絡をとるのかを急に決めるというのは困難です。危機管理の体制や、地元、顧客とのつながり、組織倫理を作っておくこともそうです。「普段できないことは非常時にもできない」というのは防災の大原則ですが、リスクコミュニケーションもまったく同じです。
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