小此木担当相に報告書を手渡すWGの平田主査(左)

内閣府を中心とした政府の中央防災会議の防災対策実行会議は26日、第10回会合を開催。「南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応検討ワーキンググループ(WG)」がまとめた南海トラフ地震に関する報告書を受け取り、対応を検討した。報告書は1978年に制定された大規模地震対策特別措置法(大震法)で前提となっている地震の直前予知は現時点で困難と結論づけ、そのうえで南海トラフ沿いでの最初の事象後の対応を盛り込んでいる。政府はこれを受け、新たな防災体制確立へ国のガイドライン策定を今後実施。静岡県、高知県および中部経済界のエリアにモデル地区を設定し、知見を得たうえでガイドライン策定に役立てる。

報告書である「南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応のあり方について」では、「大震法に基づく現行の地震防災応急対策は改める必要がある」と明記。大震法の前提となっている2~3日前の地震予知は困難だとした。

そのうえで1.南海トラフの東側だけでM(マグニチュード)8クラスの大規模地震が発生2.大規模地震よりは一回り小さいM7クラスの地震が南海トラフ沿いで発生3.2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に先行して観測された現象と同様の現象が多種目で観測された場合4.東海地震の判定基準とされるようなプレート境界面でのすべりが発生した場合―の4ケースを想定した。

ケース1と2については、過去の事例からも隣接するエリアや同じ領域で地震が起こる可能性があると判断。例えばケース1の場合、南海トラフ西側エリアにおいて地震から津波が5分以内に到達するエリアの住民には、最初の事象発生から3日程度の避難を呼びかけ。高齢者など要配慮者はケース1で津波到達が5分超から30分以内のエリアにいるのであれば、事象発生後4日目~1週間目くらいまで、ケース2では同様エリアにおいて事象発生から1週間程度は避難を呼びかけている。ケース3は防災対応に生かす段階に達していない、ケース4については地震発生の可能性が高まっていると評価でき、行政機関が警戒態勢をとるのには役立てることができると定義した。

今後の防災対応について地方自治体や住民などによる協議会の設置のほか、いざという時の行動のための国はガイドラインを作るべきであるとした。座長である菅義偉官房長官は1.検討体制の早期確立と防災対応のすみやかなとりまとめ2.間隙を作らない政府対応を実施3.国民への迅速な情報発信―を挙げた。

検討体制の早期確立と防災対応のとりまとめに向け、静岡県、高知県のほか愛知県を中心とした中部経済界のエリアでモデル地域を設置。これらの地域で地震が起こった際の対応など新たな取り組みを検討・実施。これらの地域で新たなガイドラインの策定に向け知見を得る。

国民への情報発信として、気象庁は新たな防災体制が定められるまで「南海トラフ地震に関する情報」を発表。間隙を作らない対応として、政府はこの臨時情報が発表された場合、関係災害警戒会議を開催する。

気象庁が出す南海トラフ地震に関する情報は11月1日から運用を開始。臨時情報と定例情報を設定。臨時情報は南海トラフ沿いでM7以上の地震が発生したり東海地域に設置されたひずみ計で変化を感じた場合などに出される。WG報告書でのケース1、2、4を想定している。

また「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」という有識者会議を設置。月1回定例会合を行い、その際に定例情報を発表する。評価検討委員会は従来の東海地域をを対象とした地震防災対策強化判定会と別組織だが、一体で運営。メンバーの重複もありえるという。これにより東海地震のみ着目した情報の発表は行わない。

気象庁から臨時情報が発表された場合、内閣府防災担当が関係省庁の職員を招集し、関係省庁災害警戒会議を開催する。同会議は現行でも台風上陸時などに行われているもの。同会議は国民に対して避難場所・避難経路確認や家族との安否確認手段の取り決めといった今後の備えの呼びかけも行う。

実行会議前にWGの平田直主査(東京大学地震研究所地震予知研究センター長・教授)が、小此木八郎・防災担当大臣に報告書を手渡した。会議後の記者会見で小此木担当相は「静岡県、高知県、中部経済界と連携し、モデル地区での検討を踏まえ、防災対応をしっかり構築する」と説明した。

平田主査は報告書について「大震法では3日以内の地震予知が前提だったが、現在の科学ではそういう確度の高い予知は無理なので対策は改める。しかし異常事象を発見することにより、この後地震が起こるかもしれないという確率論的な評価はできる」と説明。そして「防災対応の仕組み作りへ自治体や企業など各主体による協議会を設置し、計画を調整するのが望ましい」と述べた。さらにモデル地区での検討を通じ、「地震発生の可能性がある異常が起こったいざという時の行動は難しい。国にガイドラインを作ってもらい、自治体や企業が行動しやすい環境を整えてほしい」とした。

■ニュースリリースはこちら
「中央防災会議・防災対策実行会議」(第10回、内閣府防災)
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/jikkoukaigi/10/index.html
「『南海トラフ地震に関連する情報』が発表された際の政府の対応について」(内閣府防災)
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/pdf/nankai_taiou.pdf
「『南海トラフ地震に関連する情報』の発表について」(気象庁)
http://www.jma.go.jp/jma/press/1709/26a/nankaijoho.html

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介