2017/09/27
防災・危機管理ニュース

内閣府を中心とした政府の中央防災会議の防災対策実行会議は26日、第10回会合を開催。「南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応検討ワーキンググループ(WG)」がまとめた南海トラフ地震に関する報告書を受け取り、対応を検討した。報告書は1978年に制定された大規模地震対策特別措置法(大震法)で前提となっている地震の直前予知は現時点で困難と結論づけ、そのうえで南海トラフ沿いでの最初の事象後の対応を盛り込んでいる。政府はこれを受け、新たな防災体制確立へ国のガイドライン策定を今後実施。静岡県、高知県および中部経済界のエリアにモデル地区を設定し、知見を得たうえでガイドライン策定に役立てる。
報告書である「南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応のあり方について」では、「大震法に基づく現行の地震防災応急対策は改める必要がある」と明記。大震法の前提となっている2~3日前の地震予知は困難だとした。
そのうえで1.南海トラフの東側だけでM(マグニチュード)8クラスの大規模地震が発生2.大規模地震よりは一回り小さいM7クラスの地震が南海トラフ沿いで発生3.2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に先行して観測された現象と同様の現象が多種目で観測された場合4.東海地震の判定基準とされるようなプレート境界面でのすべりが発生した場合―の4ケースを想定した。
ケース1と2については、過去の事例からも隣接するエリアや同じ領域で地震が起こる可能性があると判断。例えばケース1の場合、南海トラフ西側エリアにおいて地震から津波が5分以内に到達するエリアの住民には、最初の事象発生から3日程度の避難を呼びかけ。高齢者など要配慮者はケース1で津波到達が5分超から30分以内のエリアにいるのであれば、事象発生後4日目~1週間目くらいまで、ケース2では同様エリアにおいて事象発生から1週間程度は避難を呼びかけている。ケース3は防災対応に生かす段階に達していない、ケース4については地震発生の可能性が高まっていると評価でき、行政機関が警戒態勢をとるのには役立てることができると定義した。
今後の防災対応について地方自治体や住民などによる協議会の設置のほか、いざという時の行動のための国はガイドラインを作るべきであるとした。座長である菅義偉官房長官は1.検討体制の早期確立と防災対応のすみやかなとりまとめ2.間隙を作らない政府対応を実施3.国民への迅速な情報発信―を挙げた。
検討体制の早期確立と防災対応のとりまとめに向け、静岡県、高知県のほか愛知県を中心とした中部経済界のエリアでモデル地域を設置。これらの地域で地震が起こった際の対応など新たな取り組みを検討・実施。これらの地域で新たなガイドラインの策定に向け知見を得る。
国民への情報発信として、気象庁は新たな防災体制が定められるまで「南海トラフ地震に関する情報」を発表。間隙を作らない対応として、政府はこの臨時情報が発表された場合、関係災害警戒会議を開催する。
気象庁が出す南海トラフ地震に関する情報は11月1日から運用を開始。臨時情報と定例情報を設定。臨時情報は南海トラフ沿いでM7以上の地震が発生したり東海地域に設置されたひずみ計で変化を感じた場合などに出される。WG報告書でのケース1、2、4を想定している。
また「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」という有識者会議を設置。月1回定例会合を行い、その際に定例情報を発表する。評価検討委員会は従来の東海地域をを対象とした地震防災対策強化判定会と別組織だが、一体で運営。メンバーの重複もありえるという。これにより東海地震のみ着目した情報の発表は行わない。
気象庁から臨時情報が発表された場合、内閣府防災担当が関係省庁の職員を招集し、関係省庁災害警戒会議を開催する。同会議は現行でも台風上陸時などに行われているもの。同会議は国民に対して避難場所・避難経路確認や家族との安否確認手段の取り決めといった今後の備えの呼びかけも行う。
実行会議前にWGの平田直主査(東京大学地震研究所地震予知研究センター長・教授)が、小此木八郎・防災担当大臣に報告書を手渡した。会議後の記者会見で小此木担当相は「静岡県、高知県、中部経済界と連携し、モデル地区での検討を踏まえ、防災対応をしっかり構築する」と説明した。
平田主査は報告書について「大震法では3日以内の地震予知が前提だったが、現在の科学ではそういう確度の高い予知は無理なので対策は改める。しかし異常事象を発見することにより、この後地震が起こるかもしれないという確率論的な評価はできる」と説明。そして「防災対応の仕組み作りへ自治体や企業など各主体による協議会を設置し、計画を調整するのが望ましい」と述べた。さらにモデル地区での検討を通じ、「地震発生の可能性がある異常が起こったいざという時の行動は難しい。国にガイドラインを作ってもらい、自治体や企業が行動しやすい環境を整えてほしい」とした。
■ニュースリリースはこちら
「中央防災会議・防災対策実行会議」(第10回、内閣府防災)
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/jikkoukaigi/10/index.html
「『南海トラフ地震に関連する情報』が発表された際の政府の対応について」(内閣府防災)
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/pdf/nankai_taiou.pdf
「『南海トラフ地震に関連する情報』の発表について」(気象庁)
http://www.jma.go.jp/jma/press/1709/26a/nankaijoho.html
(了)
リスク対策.com:斯波 祐介
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方