大自然の中を駆け抜けるジップライン。ブレーキにある技術が使われています。(画像:Pixtabay)

先日(8月11日)に東京都千代田区で作業現場の床板がはずれ、作業員の方が5階から地下3階まで落下して死亡したという事件がありました。

■作業員転落、3人死亡=ビル建設現場-東京・丸の内(jiji.com)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2017081100669&g=soc

みなさんはどう思われましたか?クライミングをしている私がまず思ったのは、いまどき、落ちるなんてどんな確保(ビレイ)をしていたの?という驚きというか衝撃です。

クライミングなんて、危ないことをしていると思われがちです。しかも、最近はボルダリングという4mくらいのロープを使わないクライミングも増えているので、12m以上の高所にロープまで使って登る人なんて、よっぽどの物好きとも思われているかもしれません。でも、安全に体を確保する技術が普及しているからこそ、できる遊びなのです。

そして、12m以上のロープクライミングでも、最近出てきた「オートビレイ」という装置で、誰でも気軽に安全にロープクライミング行えるようになってきました。雨続きの地域も多かったこの夏、体がなまっている人もいることでしょうから、「オートビレイ クライミングジム」と検索ワードに入れていただいて、オートビレイ体験を今回はおすすめしたいと思っています。

オートビレイって何?

で、オートビレイって何ってことですが、下の写真上部にある 丸い装置がそれです。

これがオートビレイ(画像提供:あんどうりす)


これが何?かというと、鉄道とかトラックとかにも使われたりする渦電流ブレーキシステムです。電気を使ってブレーキをかけているのではなく、磁石の力でうまれた渦電流(エディカレント)を利用してブレーキをかけているので、停電時でもブレーキがかかります。

仕組みはこちらの動画をどうぞ

Our Eddy Current Magnetic Braking Technology (出典:Youtube)

器具中の強い磁石の中で磁石につきにくい金属ローターを回転させ、電磁誘導作用によって渦になった電流が流れて回転が減速される特性を利用したブレーキ・・・という器具なわけです。

これを使うとバンジージャンプと違って、体重をかけると緩やかにブレーキがかかります。ゆるゆるゆるっと降りる感覚が、癖になってしまう楽しさです。体重が重くても軽くても同じ速度でブレーキがかかります。

器具の装着方法とクライミング方法はこちらの動画で。


TRUBLUE Auto Belay Climber Orientation Video (出典:Youtube)

楽しそうに思ってもらえたら嬉しいのですが♪

いままで、12mくらいある場所に登る場合には、登る人の他にビレイヤーと言われる人が必要でした。その人が落下する際、ロープをピンと張ってくれたり、登るときはゆるめてくれたりするので、登ることができたのです。

下の動画はトップロープと言われる方法より難易度の高いリードクライミングのビレイの方法ですが、ビレイヤーに必要な器具や動きがわかりやすいので紹介します。


登山道具の使い方~ビレイワーク編~(出典:Youtube)

落下の衝撃をゆるめる作業をするので、真剣勝負の世界です。遊びとはいえ、気がぬけません。命を預けても大丈夫という信頼できる人にしか頼みたくない作業です。

また、ビレイヤーがいない場合でも1人でも登りたいって人用には、特殊なカラビナがあって、その器具を使えば、1人で上り下りできたのですが、それも技術を要しました。

でも、このオートビレイ機があると、すべて1人でできてしまうのですね。気軽に登れるようになったなあと思うのと、遊びにも技術の粋を使うシステムを開発するクライマーの執念がステキだなあと思います。

なぜ、今も工事現場で落下事故が起きるのか

で、こんなに確保の道具は進んできているのに、なぜ、今も工事現場で落下事故が起きるの?と思うわけなのです。

事件について書くことが本題ではないので、仮説にとどめておきますが、法的には、足場があれば、体の確保をしなくてもいいことになっています。足場だけでは、足場に不具合が起こった際に不安だと思ってしまうのですが、こんな簡単な体の確保の仕方があることが普及していないことも原因なのかなと思ったりしています。

(参考)省令労働安全衛生規則第518条の1
「事業者は、高さが二メートル以上の箇所(作業床の端、開口部等を除く。)で作業を行なう場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない」


省令労働安全衛生規則第518条の2
「作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない」


気軽にオートビレイを使ってクライミングする人が増えたら、工事現場での作業を妨げずに、落下の心配のない画期的な応用も生まれてくるかもなんて思いました。

そうなると、さらに、別の仕事をしているクライミング好きな人が、ジムに行く感覚で工事現場でも仕事して、遊び感覚でダブルワークもしやすくなったりすれば、工事現場の人手不足も解消されるようになったりする???なんて思ったりして。(もちろんこの時、本業はお昼には終わっているってかんじで)夢がふくらむ装置なので、ぜひ、みなさまの体験を楽しみにしています。

もうひとつ、このオートビレイ機は、森の中を滑車を使って滑り降りていく遊び、「ジップライン」のブレーキにもなっています。

zipSTOP Zip Line Brake Installation Video (出典:Youtube)

「ジップライン」と検索すると体験できる箇所が複数でてきますので、こちらも体験してみてください。

もしかすると、川が増水した際、対岸に避難すればよいというときや、隣のビルや山に避難したりという場面で、ジップラインを利用した避難ということも、可能になる未来があるのかもしれません。

ですので、まずは体験をおすすめします!

(了)