修復・改良が完了した常総市にある決壊堤防(提供:高崎氏)

「ハード」「ソフト」対策、着実に進む

2015年9月、関東・東北豪雨で鬼怒川が決壊し、茨城県常総市は市域の3分の1が濁流に没した。その間、被災者から必死の救助要請が消防署に殺到。常総広域消防本部と茨城西南広域消防本部にかかった119番は決壊から3日間に2500件以上に達した。市民の逃げ遅れが続出し、ヘリやボートなどで計4258人が救出される異常事態となった。災害時における逃げ遅れ問題が大きくクローズアップされた。

あの惨事からまる2年が過ぎようとしている。被災地は「災い転じて福とな」しているのだろうか。被災後、<水防災意識社会の再構築>を掲げ、「ハード」「ソフト」両面での対策が急がれると、国土交通省はじめ茨城県や流域自治体は決意を新たにした。

四方をコンクリート壁で守る、常総市役所の非常用電源設備(提供:高崎氏)

昨年(2016年)8月、常総市役所の敷地に非常用電源の設備を四方から囲む高さ2m、幅24cmのコンクリート壁が完成した。先の大洪水で庁舎内は高さ60cmまで水に浸かり、1階は水没し非常用電源も含めて停電となった。夜間、投光器を使っての対応に追われ、外部との連絡や資料コピーにも大きな支障が出た。低地にある市役所はハザードマップ(危険予測地図)で浸水想定地区に入っていた。市役所職員なら誰でも知っていておかしくない。だが「命綱」の非常用電源を守る手だては講じられなかった(鬼怒川水害後、総務省消防庁が調査したところでは、非常用電源を設置済みで浸水の恐れがある市町村のうち、浸水対策をしていないと答えたのは38.9%だった。少なくない数字だ)。

水害後、市内の主な道路沿いの電柱などに水位情報の看板標示(想定浸水深)とハチマキのような浸水値を示す赤と青のテープが巻き付けられた。(赤は鬼怒川決壊時、青は小貝川決壊時を想定)。視覚に訴える市民への注意喚起である。2種類のテープが示す浸水の深さは大人の背丈を超えるものも少なくない。同市が小貝川と鬼怒川に挟まれた低地に広がっていることを改めて考えさせる。

常総市は被災翌年の昨年から災害に対応する「危機管理室」を新たに設けた。室長には陸上自衛隊二佐・溝上博氏が就任した。大河を抱えながら、それまで危機管理専門官がいなかったのである。災害派遣の経験のある自衛官の採用となった。「広報推進室」も新設し防災や情報発信力を強化した。(連載第3回で筑波大学の指導を受け市役所と市民が一体となって試みた全国初の「マイ・タイムライン」作成については紹介した)。
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国交省が主体となって推進している<鬼怒川緊急対策プロジェクト>は、栃木県境から守谷市までの茨城県内下流域44.3km区間を対象に、両岸の堤防のかさ上げや拡幅、河道の掘削などを行うものである。総事業費は600億円に上る。主要な堤防工事はおおむね順調に進んでいる。昨年年5月、鬼怒川決壊箇所の堤防復旧工事が終了した。新堤防は高さ5.4mと旧堤防より1.9m高い。3~4mだった堤防最上部の幅も6mに広がった。河川側の法面(のりめん)には遮水シートを敷いた上に、ワイヤで結んだコンクリートブロックで覆って補強した。地中には遮水板を打ち込み、水が堤防を抜けないようにした。ソフト対策では、隣接自治体同士が連携する広域避難計画の策定などが柱である。事業年限は2015~20年度までの6年間である。